ID番号 | : | 03245 |
事件名 | : | 解雇無効等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | シンガポール航空事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 営業部員による前払の接待費、交通費手当についての虚偽報告および不当請求をしたことを理由とする懲戒解雇につき、懲戒権の濫用にあたり無効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 民法1条3項 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為 |
裁判年月日 | : | 1980年2月29日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和51年 (ワ) 1537 |
裁判結果 | : | 一部認容 |
出典 | : | 労働判例337号43頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕 (二) しかし、他方、(証拠略)によれば、原告らが被告に提出する清算報告書の作成方法は提出者が入社の際先輩らからそれぞれ教示されていたが、中には、原告らに対し、右清算報告書は一応の形式が整っておれば必ずしも事実に即したものでなくともよいなどと教示し、あるいは接待費、交通費は返還を要しないよう全額費消したように辻褄を合わせるよう示唆するものもあり、原告もまた右両手当を実質上賃金の一部のように観念し、その清算報告については右の程度で十分であると認識していたほか、接待費の清算報告書に添付される領収証については、喫茶店での飲食、冠婚葬祭に対する出費等その性質上領収証のとれない場合もあるため、原告を含む多くの営業部員が他人の領収証や私的な飲食により得た領収証を流用した経験を有していること、交通費手当の清算報告については、旅客営業課員Aの交通費の報告書中、四月七日分一八五〇円、同営業課長Bの同報告書中、同月二五日分一六八〇円はいずれも過大請求であり、貨物営業課長C及び同課員Dはいずれも自己の自動車を使用して得意先を訪問しているにもかかわらず交通費を請求していることが認められ、右認定に反する証拠はない。 (三) しかして、右事実によると、接待費及び交通費手当の清算報告については一応の検査体制があったとはいえ、その検査の実情は相当に形式的なものであり、営業部員のなす清算報告も相当形式化し、被告において容認していたものと認めるべき証拠はないけれども、右清算報告は、必しも実体に即したものではなくなり、右各手当の趣旨及び清算報告に対する営業部員の認識も相当弛緩していて、原告もその例にもれなかったものといわなければならない。しかも、本件における接待費及び交通費の虚偽報告は、前払金にかかるものであったため、虚偽の請求を行って新に金銭の交付を受ける場合とは、実質的にみて若干色合を異にし、原告の被告を害する意識は主観的には希薄なものであったということができる。 また、前記のとおり、原告のした交通費手当の虚偽報告は、実際にはこれに相当する支出を行っていると考えられる場合であるし、接待費手当の虚偽報告・不当請求は、少額のものということができる。 さらに、(証拠略)によれば、原告は被告からの問合せに対し昭和五〇年五月六日交通費の計算違いと接待費の領収証の流用を詫びる旨の書面を提出していることが認められる。 これらの点を併せ考えると、原告の行為が被告にとって軽視できなかったものではあっても、これに対して懲戒解雇をもって臨むことは、苛酷に失し、権利の濫用として無効であるといわなければならない。 |