全 情 報

ID番号 03249
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 海上自衛隊需給統制隊事件
争点
事案概要  四塩化炭素等を用いて通信機の洗浄作業に従事する海上自衛隊員の肝硬変による死亡につき、国に安全配慮義務違反があるとして損害賠償請求を認容した事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条
民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1980年3月24日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ワ) 476 
裁判結果 一部認容(確定)
出典 時報971号67頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 (被告の責任)
 三 国は、国家公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設若しくは器具等の設置管理又は公務員が国若しくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理に当たって、その職種及び勤務内容等に応じ、公務員の生命及び健康等を危険から保護すべき義務(いわゆる「安全配慮義務」)を負っているものというべきところ、それを本件についてみるに、《証拠略》によれば、四塩化炭素は、前述のような毒性はあるものの、強い洗浄力があるため金属等の洗浄剤として一般に広く用いられていることが認められ、その毒性の故にこれを使用することが禁ぜられているわけではないけれども、使用者としては、このような人体に対する危険性の高い物質を用いて作業者に作業をさせる場合には、作業者の安全を守るための必要な措置をとるべき義務があることは多言を要しないところというべきである。
 (中略)
 本件のように日常業務の一環として頻繁に有機溶剤を用いた洗浄作業を行わせる場合、使用者たる被告としては、有機溶剤の毒性から作業に当たる当該公務員の生命・身体・健康を守るため少なくとも右中毒予防規則に定められている措置を講ずることが条理上要請されているものというべきであり、そのことが被告の当該公務員に対する安全配慮義務の一内容をなしているものと解するのが相当である。
 しかるに、本件の場合、《証拠略》によれば、亡Aの所属していた機械記録科通信係では、亡Aが体調の異常を訴え、肝炎であるとの診断を受けた後昭和四〇年六月ころまでは、亡Aの上司であるB二佐及び亡Aを含めて誰も四塩化炭素等の有機溶剤の毒性について十分な知識を持っておらず、また、有機溶剤の毒性及びその取扱いについての十分な教育がなされたこともなかったこと(《証拠略》によれば、昭和三九年八月一五日付をもって、「毒物及び劇物の取扱いについて」と題する海上幕僚監部経理補給部長名による依命通達が発せられたが、右通達は、青酸カリウム等の毒物及び四塩化炭素等の劇物について、その致死量を明示したうえ、その保管上の一般的な注意事項を指示したものにすぎないばかりでなく、《証拠略》によれば、右通達の趣旨が下部にまで徹底されていなかったことが窺われる。また、《証拠略》によれば、昭和三九年一一月ころに行われた海上幕僚監部の監察の際、有機溶剤の取扱いについて、取扱規則を順守して、窓を開け、通風をよくするようにとの指摘がなされたが、その趣旨が下部に至るまで徹底されていなかったことが認められる。)、そのため前記テレタイプ室には換気装置(局所排出装置)も設けられず、ホースマスク、手袋などの保護具も設備されないなど、有機溶剤を用いた洗浄作業についての安全対策が全く考慮されていなかったことが認められ、また、《証拠略》によれば、被告は、亡Aらにつき一般的な定期健康診断は行っていたが、肝機能検査など有機溶剤を取り扱うことによって発生が予想される障害に対する検査又は検診は行っていなかったことが認められ、これらの事実によれば、被告が亡Aに対して負っていた前示安全配慮義務を怠っていたことは明らかであり、右安全配慮義務懈怠と亡Aの死亡との間には相当因果関係があるものといわざるをえない。