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ID番号 03267
事件名 労働契約不存在確認請求本訴事件/従業員地位確認等請求反訴事件
いわゆる事件名 阪神観光事件
争点
事案概要  キャバレーとその専属楽団の楽団員との間に労働契約関係が存在するか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法9条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 演奏楽団員
裁判年月日 1980年8月26日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (ネ) 1483 
裁判結果 棄却(上告)
出典 労働民例集31巻4号902頁/時報986号119頁/タイムズ427号106頁/労働判例351号51頁/労経速報1130号11頁
審級関係 一審/00097/神戸地尼崎支/昭53. 7.27/昭和48年(ワ)83号
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-演奏楽団員〕
 被控訴人らはいずれも控訴人との間に締結された優先出演契約に基づいて、年間を通じ控訴人の経営する「A」に必要な楽団演奏者としてその組織にくり入れられ、控訴人の指定する日時、場所において包括的に指示された方法によつて出演すべき義務を負つて継続的に演奏業務に従事して来たものであるところ、これらの演奏業務に従事するに当つては、控訴人の一般的な指揮監督のもとにあり、またその出演報酬は、演奏労働の対価とみられる程度のものであり、被控訴人らはいずれもこれを主たる収入源としてその生計をたてているものであり、これらによると、控訴人と被控訴人との間には、いわゆる労働契約関係があり、被控訴人らは控訴人の従業員であると認めるのが相当である。控訴人は、被控訴人Y1、同Y2の演奏を請負わせているに過ぎないと主張するけれども、前判示のとおり、同被控訴人らは各バンドリーダーであるが、各団員と共に演奏業務に従事し、受取つている演奏料配分額も他の楽団員とさして変りがないのであり、控訴人から独立して自己の名義と計算においてバンドを経営している状況にはなく、控訴人のもとにあつて、楽団員を管理するいわば職制的役割にとどまるものというべきである。
 もつとも、前掲証拠によれば、控訴人は事務職員あるいはボーイなどの従業員については採用する際に履歴書等を出させ、個人面接をするなどの手続をなし、また前判示のとおり、出勤簿、タイムカードを備えて勤務評定をしていることが認められるのに対し、被控訴人らバンドの採用の場合には前判示の選考をするのみであり、また右出勤簿等の備付による出勤状況の管理をしていないことが認められるのであるが、採用手続や管理方法が職種によりまたその必要性の程度によつて違うことは何ら異とするに足りないのであつて、バンドの場合はボーイ等と違い、楽器の演奏者であり、かつ集団的な労務提供をするものであるから、控訴人は個人の独奏者としての能力、個性、態度よりも、合奏者としての調和性や能力、人柄等に着目して採用し、かつその出勤状況についてもその管理をバンドマスターに一任しているものと解される。
 また、楽団員が休んだ場合の臨時雇の採用、楽団員の退団に伴う後任者の補充がバンドマスターたる被控訴人Y1、同Y2によつてなされ、その都度控訴人に報告されるわけではないこと、また演奏料は控訴人から右Y1・Y2に一括して支払い、各同人から各所属楽団員あるいは臨時雇に支払われていることは前認定のとおりであるが、前判示のとおり楽団員の補充、採用は、音楽的な知識、縁故関係を持たない控訴人がこれを実施することは難しいために、右各バンドマスターに右採用・補充の権限を委せているのであり、また、給与所得の源泉徴収については当初から各楽団員毎に行なつているが、演奏料の配分、欠演者の演奏料の差引・臨時雇への手当支給なども採用補充の権限を委せた右マスターにそのやりくりをさせた方が結果として公平経済的であり、円滑な運営がなされるとの配慮から行われているものと解され、従つて、右のような各事実は、形式的には請負的な外形を有するとしても、実質的には楽団出演という特殊な雇傭契約に随伴するものとみるべきであり、右事実のみから控訴人と被控訴人らとの出演契約が請負であるものとは認め難く、その間に労働契約関係があり、被控訴人らが控訴人の従業員であるとの前記認定判断を覆えすものとは認め難い。