全 情 報

ID番号 03278
事件名 金員支払地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 大昌実業事件
争点
事案概要  二回の更新がなされた出演契約につき、契約書の作成もなされなかったこと等により、本件契約を継続すべきものと期待するに十分な合理性があり、更新拒絶にさいしては解雇に関する諸法規を類推適用すべきとされた事例。
 キャバレーで楽団演奏をする右出演契約は使用従属関係が認められ労働契約にあたるとされた事例。
 営業不振にともなう店舗の閉鎖にともない他店舗への配転を命じられたバンドマンに対する整理解雇につき、右店舗の閉鎖が組合活動を嫌悪してなされた不当労働行為の疑いが強く、解雇権の濫用にあたり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法623条
民法628条
民法632条
労働組合法7条1号
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 演奏楽団員
解雇(民事) / 解雇事由 / 企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更
解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 1979年1月10日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和53年 (ヨ) 891 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例315号60頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-演奏楽団員〕
 以上認定にかかる各事実によれば、本件出演契約は、申請人らと被申請人との間で締結されたものとみるのが相当であり、その性質も、右各事実によれば申請人らが被申請人の指定する日時、場所において楽団演奏等の業務に従事すべき義務を負っていること、右演奏業務の遂行にあたっても被申請人の指揮監督を受け、かつ申請人らが受ける演奏料は演奏自体の対価であり、しかも申請人らはこれを主たる収入源として生計を立てているものであるということができるから、被申請人と申請人との間にはいわゆる使用従属関係があるものと解すべきであり、労働契約であるとみるのが相当である。
〔解雇-解雇事由-企業解散・事業の一部廃止〕
 右認定の各事実を総合すれば、「A梅田店」が被申請人の事業所の一つであるところ、「梅田店」が開店以来経常的に赤字をだしてきたことが認められる。しかし被申請人がいうように「梅田店」を閉鎖しなければ、被申請人自体の倒産、破産につながるとは到底認められず、昭和五二年一〇月以降の「梅田店」の営業状態からすれば、右店舗を閉鎖すべきほどの業績不振であったとも認められない。却って、被申請人は当初(昭和五二年一二月中旬頃)「梅田店」地下二階部分を、地下三階部分と同じくキャバレー営業よりも一層利益の上るミニサロン形式の店舗に切り替える意図で、「梅田店」の閉鎖を思いたったが、楽団演奏やショウ等のサービスをしないミニサロン形式の店舗では、もはや申請人ら楽団員を必要としないことから、同人らに対しまず任意退職を求めたが、その直後申請人らが組合に加入したことが、被申請人の明かに知るところとなったうえ、申請人らが右任意退職に応じないので、この際組合活動をする申請人らを被申請人から排除するため「梅田店」の閉鎖に踏み切ったことが認められるのであって「梅田店」閉鎖の必要性にまず疑いがもたれる。
 もっとも企業がその事業所を閉鎖するか否かは、その閉鎖がいわゆる偽装閉鎖でない限り企業主の専権に属するものといわざるをえないが、右閉鎖が当該事業所で働く者のみの犠牲のうえにたって行われることが許されないのも当然である。
 これを本件についてみるに、前記認定の事実によれば、被申請人が申請人らを「十三店」或いはCグループ傘下の他の会社の経営する店舗へ配置転換させることが、申請人らが楽団員であることから他の従業員例えばホステスと異なり、困難を伴うことは認められるが、被申請人はこれを専ら申請人らを含む楽団員の人件費が倍増するという面から考えて拒否したものであって、その余の点については具体的に検討した様子も努力した形跡もないというのであるから、右配転拒否が正当なものであるといえないことは明らかである。
 以上によれば、「梅田店」の閉鎖が、偽装閉鎖とはいえないが、申請人らの組合加入、組合活動を嫌悪してなされた不当労働行為の疑いが強く、且つ「梅田店」閉鎖に伴う申請人らの解雇も正当性を欠くものといわざるをえず、本件解雇は、解雇権の濫用として無効といわざるをえない。
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 右事実によれば、申請人らが期間満了後も被申請人において当然本件出演契約関係を継続すべきものと期待するについて十分合理性が認められるから、このような場合に更新を拒絶するには解雇に関する諸法規を類推適用すべきものと解するのが相当である。
 そうすれば、被申請人が申請人らに対し、期間満了による本件出演契約の終了を主張するのにも解雇理由の存在が要求されることになるが、前記のとおり解雇理由は存在しない。
 そうだとすれば、申請人らと被申請人との間の本件出演契約は、昭和五三年四月末日をもって終了せず、依然として継続しているものといわざるをえない。