全 情 報

ID番号 03280
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 陸上自衛隊中部方面事件
争点
事案概要  自衛隊員の船舶輸送中、船酔いをして海中に転落死した事故につき、国に安全配慮義務違反はなかったとして損害賠償請求を却けた事例。
参照法条 民法415条
国家賠償法1条
労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1979年1月29日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ワ) 5744 
裁判結果 棄却
出典 タイムズ387号78頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 本件輸送のような人員の輸送の指揮に当たる者としては、全員を目的地まで無事に送り届けるのがその任務であるから、隊員の動静を把握し、体調の悪い者があるときには適切な手当を受けさせる義務があるというべきであるが、本件「A船」のような公共の交通機関を利用して輸送が行われる場合においては、その際に部隊としての特別の訓練若しくは演習が行われるなど特別の事情があれば格別、そうでない限り、その交通機関の利用に伴い一定の危険(例えば、本件のような航行中の船舶からの海中への転落の危険)にさらされるという点においては、一般乗客との間に差異がある訳ではなく、しかも本件の場合、輸送の対象であった亡Bらは、入隊後間がないとはいえ、三か月間の前期教育において自衛隊員としての基礎訓練を受けた者であり、また亡Bは当時一九歳で(同人が昭和二八年一〇月一日生まれであることは当事者間に争いがない。)、社会生活における右のような危険に対する判断力を十分備えていたものとみられるから、このような者については、社会通念上容易に予想しうる前記のような危険は自らの判断と責任において回避するものと期待して差支えなく、さきにみたように、「海が相当しけているから甲板に出ないように」との船内放送がなされ、上司からも同様の指示を受け、かつ、甲板への出入口に「荒天のため出入厳禁」との警告がなされている以上、これらを無視してあえて危険な行為に出る者があることまで予想して、輸送の指揮に当たる者が隊員の動静を終始監視し、あるいは甲板への出入口に見張りを立てる等の措置をとるべき義務はないものというべきである。