全 情 報

ID番号 03283
事件名 雇用関係確認請求事件
いわゆる事件名 大同メタル工業事件
争点
事案概要  連合赤軍事件に関する犯人蔵匿罪で逮補・不起訴となったこと等を理由とする通常解雇が無効とされた事例。
 組合執行部批判、会社批判等を理由とする懲戒解雇が無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 政治活動
解雇(民事) / 解雇事由 / 被疑者の隠匿
裁判年月日 1979年2月26日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (ワ) 2485 
裁判結果 認容
出典 労働判例322号95頁/労経速報1024号13頁
審級関係 上告審/01979/最高一小/昭59. 2. 9/昭和56年(オ)579号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-政治活動〕
 2 そこで考えるに、前記二6(一)の原告の依頼による訴外Aらの本社正門付近路上におけるビラ配布の所為は被告の施設及びその敷地内でなされたのではなく、また、これによって被告の業務に支障を及ぼしたということもないのであるから、同規則九二条八号には該当しないし、ビラの内容も文言自体に照らし、労使協調路線にある執行部批判を目的としたことは明らかであって、ことさらに特定個人を誹謗中傷することを目的としたものと認めることはできないから、ビラの内容が同規則九三条六号に該当するとみることは到底できない。
 仮りに、マイク放送が原告の依頼に基づくものとすれば、マイク放送もビラと同様の理由で、同規則の前記各号に該当しないことは明らかである。そして右所為が、組合定期大会開催時になされたことから、右大会の運営に一時的な支障を来たしたことは前記のとおりであるが、これは組合の組合員に対する対内的統制権により処理せらるるべきことがらであって、使用者たる被告の関知すべきことがらでないというべきである。
 3 前記二6(二)のビラ貼付所為について
 これらビラは、いずれも原告ら工場委員会のメンバーが主として夜間に非公然活動として行ったもので、執行部批判、会社の合理化方針批判、政治的スローガンの三種に大別されるが、貼付場所は殆んどが被告敷地外であり、その内容もビラの文言自体に照らし、ことさらに特定個人を誹謗中傷することのみを目的としたものとは認められない。従って、原告のこれら所為は、同規則九二条八号、九三条六号に該当しない。
 右ビラの執行部批判を目的としたビラの内「Bやめろ恥を知れ」、「ダラ幹Bグループ反対」等は、場合により組合の統制権行使の対象となることはあるであろうが、このことは、被告の関知すべきことではあるまい。
 もっとも、当初一、二回本社名古屋工場の塀や本社正門前の被告社名表示板にビラを貼付した所為は形式上は、同規則九二条八号に該当するが、同号違反をもって問責するに足りる程の違法性は存しないというべきである。
 4 前記二6(三)の所為について
 右ビラ配布は、原告らが終業後職場の同僚数名に学習のための討議資料として作成したビラを配布したというにすぎないから、これによって職場秩序をみだすとは言えず、右所為は同規則九二条八号違反をもって問責する程の違法性は有しない。
 5 前記二1の所為について
 被告の従業員たる原告が犯人蔵匿罪の嫌疑で逮捕され、そのことが広く報道されたけれども、原告は、結局嫌疑不十分として不起訴になったのであり、他に原告が犯人蔵匿罪の犯意を有していたと認むべき証拠がない以上、原告には、同規則九二条八号の責任事由を認め難いから、これら事実をもって同条項に該当するとなすことはできない。
6 以上を要するに原告の各所為には、就業規則上懲戒事由に該当するものはないということになる。
〔解雇-解雇事由-被疑者の隠匿〕
 前記のとおり、犯人蔵匿罪については、犯意の立証不十分として不起訴となったのであるから、新聞報道にあるとおりのC、Dを介しての原告と連合赤軍とのつながりについては、この点についてDらの捜査当局に対する供述調書等確実な証拠でもない限り、これを認めるに由ないし、原告の組織していたE反戦ないし工場委員会はビラ活動しかしておらず、過激派集団とは言い難い。
 さらに、前記各種のビラの内容は、(証拠略)によれば、毛沢東語録からの抜書部分もあることが認められ、全体としてみれば抽象的短絡的な文言の羅列にすぎず、これら具体性のない短絡的な文言から直ちに原告が暴力による企業破壊を現実に企てていたと認めることは困難であり、また、たとえ被告の従業員がこれらのビラを読んだとしても、このような具体性のないビラによって従業員の動向が左右されるおそれはないというべきである。
 そして、先に認定した原告の勤務成績は決して良好とは言えないが、さりとて従業員として著しく適格を欠く程の成績とは認められない。
 これを要するに、原告の一連の所為の中には当を失した点も多多存し、原告も反省すべき点は少なからずあるが(自己の思想信条が正しいと信ずるならば、少くとも行為者が誰であるか分らない方法によるビラ活動はすべきではあるまい。なお、(証拠略)により認められる原告が解雇後配布したビラの中にある不穏当な文言ないし解雇後にした組合幹部に対する深夜電話等も、十分反省すべき点である)、いまだもって、これを解雇しなければならないほど従業員としての適格を著しく欠くとは認められず、原告は就業規則二三条六号に該当しない。