全 情 報

ID番号 03291
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 内宮運輸機工事件
争点
事案概要  配転に関する交渉の続行に期待を抱かせながら突然配転辞令書を交付し、配転命令拒否を理由に直ちに解雇したことにつき、右解雇は信義則に反し無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条2項
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1979年4月9日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和53年 (ヨ) 2328 
裁判結果 一部認容・却下(確定)
出典 時報942号134頁/労働判例319号55頁/労経速報1016号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 既に説明したとおり第二次配転命令は申請人に対する内示ないしは事前の意向の打診なしに突然になされたものであるから、前記一5認定のとおり、申請人および分会が第二次配転命令のなされた八月七日夜の団体交渉において諾否の返答を留保し、検討のための時間的余裕を要求したことは当然といえる。そして、前記一5認定のとおり、申請人および分会は、同月一〇日第二次配転命令に対し総務課主任への降格あるいは申請人が組合活動をすることについて勤務時間等の面での保障があれば安全課への配転に応じる旨の方針をたて、同月一五日の団体交渉において安全課における申請人の業務内容、組合活動に対する配慮の有無等を質問し、安全課への配転を全面的に拒否するのではなく話合いの条件を双方で更に検討して行くことを希望したものである。疎明資料によれば、被申請会社は、第一次配転命令にあたり、申請人および分会に対し、安全課には人員を補充する必要がないこと、営業第一課においては申請人の組合活動について一定の配慮をする旨説明していたことが一応認められるから、申請人および分会が前記のような態度をとり、さらに被申請会社に対し交渉の続行を要求したことは不当とはいえず、また申請人および分会の前記態度が第二次配転命令を全面的に拒否したものと評価し難いことはいうまでもないところである。ところが、被申請会社は、前記一5認定のとおり、同月七日および一五日の団体交渉において申請人および分会の質問に対し必ずしも十分な説明をせず、同月八日には申請人の机を安全課に移動させて配転命令の実施を強行しようとし、同月一五日の団体交渉では話合いの続行を拒否せず、また、直ちに解雇するつもりはない旨答えたにもかかわらず、翌一六日に突然申請人に配転辞令書を交付しようとし、申請人が自分一存では受け取れない旨答えると申請人が配転命令を拒否したことを理由に解雇する旨の意思表示をしたものである。申請人は話合いが続行されるものと考えていたのであるから、配転辞令書を分会役員との協議なしに受け取れないといったことは当然であり、これを第二次配転命令を拒否したものとすることはできず、また、疎明資料および審尋の全趣旨によるも、申請人が直ちに安全課に移らなければ業務運営上著しい支障をきたす緊急の事情は見出し難い。そして右に検討した本件の事実関係に即して考えれば、被申請会社は、配転命令後といえども、申請人および分会の質問に対し、第二次配転の理由、申請人が事故防止係長として安全課においてどのような業務を行なうのか、組合活動に対する配慮について考慮の余地は全くないのか否か等につき十分な説明をして納得のえられるようにするとともに、申請人に対し最終的な諾否の回答を考慮させるためなお交渉を続行すべきであったといわざるを得ない。
 本件解雇は、申請人が第二次配転命令を拒否し、本件解雇に至るまでの九日間安全課における就労を拒否した所為が就業規則二六条一号、二号、三号に該当することを主たる理由としており、前記一6認定のとおり、申請人は右の期間安全課に就労しなかったことは明らかである。しかしながら既に説明したとおり、申請人は、第二次配転命令を全面的に拒否したものとはいい難いうえ、右の期間配転の諾否に関し被申請会社と交渉を続け(この交渉の続行が不当なものといえないことは先に述べたとおりである。)、また、この間引続き総務課に出勤していたものであるから(本件全疎明によるも被申請会社が総務課への出勤を欠勤として扱っていたことは窺われない。)申請人の所為がただちに就業規則二六条一号、二号、三号に該当するものとはいい難い。仮にそうでないとしても、既に説明したとおり、本件の事実関係のもとでは、被申請会社は、第二次配転命令につき十分な説明をして納得のえられるようにするとともに最終的な諾否の回答を考慮させるため交渉を続行すべきであったから、本件解雇につき第二次配転命令拒否、安全課不就労を理由としたことについては労使間の信義則に反し許されないものといわざるを得ない。次に、本件解雇は、第一次配転命令を拒否したことをも理由としているが、第一次配転命令は被申請会社が任意に撤回したものであり、第一次配転命令が発せられて撤回されるまでの二〇日余りの間申請人が営業第一課で就労しなかったことにより業務に著しい支障を与えたとの疎明もないから(疎明資料および審尋の全趣旨によれば申請人はこの間総務課に出勤していたことが一応認められ、これが欠勤として扱われていたことを窺わせる疎明はない。)、仮に第一次配転命令が有効としても、このことのみをもって申請人の所為が就業規則二六条一号、二号、三号に該当し、解雇を相当とするとまでは認め難い。
 疎明資料および審尋の全趣旨によれば、申請人の勤務態度は良好であり、他に解雇を相当とすべき事由もないから、右に説明したところから明らかなとおり本件において申請人を解雇することは解雇権の濫用といわざるを得ず、被申請会社のなした本件解雇の意思表示は無効であり、申請人は被申請会社の従業員たる地位を失っていないことになる。