ID番号 | : | 03295 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 佐野安船渠事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 製缶工のじん肺性肺結核につき、使用者にマスク備付等の安全配慮義務違反があるとして損害賠償請求が認容された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法415条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 |
裁判年月日 | : | 1979年4月23日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和50年 (ワ) 6380 |
裁判結果 | : | 一部認容・棄却(控訴) |
出典 | : | 時報930号87頁/タイムズ389号122頁/労経速報1017号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕 前記二の1に認定したところから明らかな通り、原告が働いていた被告の建造する新造船の機関室内の作業現場は、多量の酸化鉄粉じんが発生し、原告ら従業員がじん肺に罹病する危険性の極めて大きいところであったところ、《証拠略》によれば、人が、じん肺に罹病すれば、肺胞が破壊されて肺機能が低下し、ひいては心臓が慢性的に負担を受けて心不全を惹起する一方、合併症として、極めて肺結核を併発しやすく、その他、慢性の気管支炎、場合によっては肺癌も発生することのあることが認められる。したがって、被告は、使用者として、被告の建造する新造船の機関室内の作業現場における粉じんの吸引、排出、新鮮な空気による換気等適当な措置を講じ、又、右機関室で作業に従事する原告ら従業員に使用させるための呼吸用保護具を備えるとともに、右呼吸用保護具の着用を周知徹底させるなどの安全教育を施すなどして、原告ら従業員がじん肺に罹病しないようにすべき労働契約上の安全配慮義務があったものというべきである。 ところで、被告が右安全配慮義務を尽したことを窺わせる《証拠略》はたやすく信用できず、他に被告が右安全配慮義務を尽したことを認め得る的確な証拠はない。却って、前記二の1に認定した事実に、《証拠略》によると、(1)、原告が前記の如く入院した昭和四九年五月頃までは、原告ら従業員の作業現場である被告の建造する新造船の機関室内の換気は、機械力による強制換気の装置によるものではなく、右機関室の前の隔壁に設けられた通路と排気を兼ねた工事穴等のみに頼っていたから、右機関室内の換気は極めて不十分であり、作業開始後一時間も経った頃には、多量の酸化鉄粉じんを含有する空気が機関室内に充満していたこと、(2)、さらに、被告は、原告ら製缶工の着用する防じんマスクを充分に備え付けていなかったうえ、原告ら従業員に対し、防じんマスクを着用して作業するよう指導教育したことはなく、その点の安全教育をしなかったので、原告ら従業員は、防じんマスクを着用せずに作業に従事してきたこと(もっとも、被告は、原告がじん肺に罹病後、機関室内に強制換気装置を設け、定期的に粉じん測定を実施するとともに、従業員に対して防じんマスクの着用を義務づけるようになった)以上の如き事実が認められる。してみれば、被告は、原告に対し、前記労働契約上の安全配慮義務を怠ったものというべきである。 よって、原告は、被告の前記安全配慮義務を尽さなかった債務不履行により、じん肺及びこれと併発した肺結核(じん肺性肺結核)に罹病したものというべきであるから、被告は、原告に対し、民法四一五条により、原告の被った後記損害を賠償すべき義務があるというべきである。 |