ID番号 | : | 03301 |
事件名 | : | 転勤命令の効力停止仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本発條伊那工場事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 余剰人員を理由とする長野県伊那工場から横浜工場への配転命令につき、一名については農業を継続できないとの理由で無効としたが、他の二名についてはこれを有効とした事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法1条3項 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界 |
裁判年月日 | : | 1979年5月29日 |
裁判所名 | : | 長野地飯田支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和53年 (ヨ) 10 |
裁判結果 | : | 一部認容 |
出典 | : | 労経速報1018号3頁/労働判例322号39頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕 ところで、被申請会社が農業兼業者を本件転勤対象者から除外しなかった理由は前記のとおりであり、右理由は一般的には是認しえないでもないところであって、申請人X本人尋問の結果によれば、現に農業兼業者数名が本件転勤命令に応じて転勤先工場へ赴任している事実も一応認められる。しかしながら、農業兼業者の営む農業にも種々の形態と規模があり、またこれに従事する家族労働力にも個別的に異る事情があることは明らかであり、農業兼業者中、仮に転勤命令に応じたとすれば、同人方の農業経営が維持できなくなることが客観的に明らかな場合に、同人に転勤を強要することは社会的に見ても相当でなく、前記認定の本件転勤についての被申請会社の業務上の必要性と転勤規模と対比しても、本件転勤命令の効力を否定するに足る正当事由になるというべきである。 同申請人の場合、右認定の事情、特に昭和五二年一〇月以降の同申請人の農業経営の形態と規模(なお判断の基準時としては、本件指名転勤切替えが現業社員に公表された昭和五二年一一月二四日ころとするのが労使間の信義則に照らして相当であろう。)及びその家族構成に照らすと、同申請人方の農業は同申請人なしでは経営不可能と認められる。そのうえ、被申請会社も同申請人が農業を兼業とすることを承知し、これを継続できるとの信頼を与えて同申請人を採用した事実をも勘案するとき、同申請人には本件転勤命令を拒む正当事由があるというべきである。 (中略) 右認定の事実によれば、悪性の既往症をもつ兄の万一の場合に備えて引続き伊那市に居住していたいとする同申請人の心情を理解することは不可能ではないとしても、兄は本件転勤命令発令当時すでに手術を済ませた段階であり、その後の予後に照せば、内申請人の右理由は自身の結婚問題をも含めて主観的なものといわざるをえない。なお、同申請人が伊那工場に約一四年間勤務していた実績についても、本件転勤についての被申請会社の業務上の必要性と転勤規模に照らせば、特段に先任権の認められない状況において、転勤拒否の正当事由とは認め難い。 (中略) 以上認定の同申請人の個人的事情のうち、同申請人自身居住地を離れたくないという感情は、同申請人の経歴の点を勘案しても、なお同申請人の主観的事情を出るものではないというべきである。問題は母一人子一人の関係にある同申請人の母親が現居住地を離れることを拒絶している点であるが、右母親が同申請人の被扶養者であり且つ病弱等現居住地から移転できない客観的事由があるのならば格別、同申請人の母親の場合、長年支障なく労働に従事するなど独自の経済力と生活力を有しているのであり、被申請会社において同伴家族のための就職の機会まで準備している中で、このような母親が同申請人とともに転勤先へ行くのを肯じないことは、同申請人の本件転勤命令を拒む正当事由とはなりえないと解するのが相当である。 |