全 情 報

ID番号 03316
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 北斗音響事件
争点
事案概要  整理解雇につき、資料を提示して十分に説明することなく、また解雇回避の努力もしていないとして、右解雇を無効とした事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
裁判年月日 1979年10月25日
裁判所名 盛岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和54年 (ヨ) 42 
裁判結果 認容
出典 労経速報1033号17頁/労働判例333号55頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 4 そこで考えるに、右に認定した事態の経過を以てしては未だ本件解雇を正当視しうるだけの前記諸条件が満されたとみることが出来ない。第一、労使間で本件解雇をめぐる諸条件についてほとんど実質的な話合いが交された形跡がない。会社はこれについて組合が過去の労基法違反等をさわぎ立てて一向に話合のテーブルにつこうとしなかったためと難詰するが、前認定の経過に照すといちがいに組合側のみを非難することは出来ない。一体、会社は一月一二日の即時解雇通告によって債権者ら花巻工場の従業員の信頼感を一挙に失ってしまったのであって、その後も平常操業の開始を約しながら十分な操業態勢におかず右不信感を除去する努力をしなかった。そうした中で、会社の提示した配転案(それは会社が債権者らのために配慮したほとんど唯一のものである)はそれが今すこし正常な時期に正常な形で示されたならば、今すこし違った受取り方をされたかも知れないが、債権者らには会社が話合いを捨てて強硬措置に出たとしか映らずかえって反撥を招き何ら事態を解決するよすがにならなかった。更に二月二七日組合が従来の闘争方針を転回し会社の工場閉鎖の方針を受け入れる態度に変った後もその方向で組合側の経済的要求について何らの協議も交渉もなされぬまま本件解雇に至っている。組合の要求が会社にとって話合いの余地がないくらい過大に思えたのかも知れないが、組合が後に地労委のあっせん案を受諾しているところをみると組合の要求が妥協の余地がないくらいに硬直なものであったとは到底思われない。そうしてそもそも本件解雇は花巻工場を閉鎖しそれに伴って全従業員を解雇するという異常なものなのであるから、それだけに工場閉鎖の理由、解雇の必要、何故に他工場の従業員は解雇の対象とならないかなどについて、会社の決算報告書等の経理資料を開陳するなどして十分な説明が加えられてしかるべきなのに会社は少くとも最初はただ単に不況を乗り切るための止むを得ない措置であるとか工場閉鎖・解雇は既定の方針である旨の抽象的な説明に終始し、ほとんど債権者らおよび組合を納得させる説明を行った形跡のないこと(因みに債権者X審尋の結果によれば、債権者ら従業員の間には会社は申請外A株式会社の傘下に入っているのだから倒産など考えられないのではないかとか、花巻工場の敷地を売って子会社の台湾工場の設備拡張を考えているのではないかといった臆測が流れていたことが窺われる。これは従業員たちが会社の経営状態をそれ程深刻なものとは受取っていなかったことを示すのであり、これに対し、会社の工場閉鎖・解雇および配置転換に関する具体的な資料が提出されたのは、ようやく二月二一日になってからのことであるし会社の営業報告書等は本件仮処分申請後提出されたものである。)、整理対象者の選定にしても一工場の全従業員というのでなしに全社的に希望退職者を募集するとか整理対象者の再雇用の保障、他企業への再就職の斡旋等できる限り労働者側の犠牲を少なくする措置を考慮検討した形跡がほとんどないこと(わずかに工場閉鎖・整理解雇案を一旦撤回した後、他工場への配置転換を計画し提案したけれども、これとても会社が工場閉鎖をスムーズに進めるための手段・方策の色彩が濃い)、債権者らの退職金の増額ないし生活保障金などについても全く考慮されないものであることなど、本件証拠にあらわれた諸事情の下においては、本件解雇は会社が企業の存続維持に急な余り総じて従業員に対する配慮を著しく欠き、信義則上整理解雇に要求される前記諸要件を欠いたまま解雇を強行したものであり、解雇権の濫用として無効といわざるを得ない。