ID番号 | : | 03324 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 元自衛隊員事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 公務員の国に対する安全配慮義務違反にもとづく損害賠償請求権の消滅時効は、公務員がこれを請求しえた時(退職日)から一〇年の経過によって完了するとして、右請求が棄却された事例。 |
参照法条 | : | 民法1条 民法166条 民法167条 民法415条 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 |
裁判年月日 | : | 1979年12月21日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和50年 (ワ) 6520 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | 時報954号56頁/タイムズ408号128頁/訟務月報26巻3号446頁 |
審級関係 | : | 控訴審/03148/東京高/昭58. 2.24/昭和54年(ネ)3076号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕 被告国は、仮に亡大A対するX線被曝からの安全配慮につき欠けるところがあったとしても、右安全配慮義務違背による損害賠償請求権は、同人がX線の業務を離脱した日から一〇年を経過した日である昭和四三年三月一五日又は同人が陸上自衛隊を退職した日から一〇年を経過した日である同月一七日をもって時効により消滅した旨抗争するので、まずこの点について判断する。 国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設若しくは器具等の設置管理又は公務員が国若しくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理に当たって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負っているのであるが、右義務の内容およびその履行期は公務員の職種、地位及び安全配慮義務が問題となる具体的状況によって信義則上定められるべきものであり、これを本件にあてはめてみると、被告国は亡Aに対し、亡Aが公務であるX線取扱業務を遂行するに際し、X線被曝による亡Aの生命・身体に対する危険防止に必要な防護措置を講じ、仮に、被曝したときには担当職務を変更し、充分な治療によって亡Aの生命・身体への危険を避けるべき内容の義務を負う。そして、国が右義務を怠って公務員に損害を与えた場合には、国は公務員に対し損害賠償義務を負うが、右義務は本来の債務の内容が変更されたに止まり、その債務の同一性には変わりはないからこれに対応する公務員の国に対する損害賠償債権も民法一六六条、一六七条一項により本来の安全配慮債務の履行を請求しうるときから進行を始め、一〇年の経過によって完了するものと解すべきである。ところで、右国の安全配慮義務は在職公務員に対するものであって、公務員たる地位を失った者に対してまで負担するものではなく、当該公務員の退職後はかかる義務の発生する余地はない。このように、被告国の亡Aに対する本件安全配慮義務も、亡Aが陸上自衛隊を退職した昭和三三年三月一七日以前に負担すべきものであり、また、亡Aも被告国に対し退職以前において右義務に対応する安全配慮請求権を有し、かつ、行使しえたものである。したがって、亡Aの被告国に対する本件安全配慮請求権は、遅くとも右退職日までは存在し、行使しえたのであるから、それから一〇年を経過した同四三年三月一七日をもって時効により消滅したとするべきである(亡Aが昭和三三年三月一七日に陸上自衛隊を退職したことは当事者間に争いがない)。 そして被告は右時効を援用する旨を明らかにしている。 そうすると、原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、すべて理由なきに帰するものといわなければならない。 |