全 情 報

ID番号 03344
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 栄進社事件
争点
事案概要  東京本社に一般事務職員として勤務し組合活動に熱心な工高卒の男子の独身従業員が嘱託の所長一名のみの大阪営業所への配転を拒否したとして懲戒解雇されたケースでその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1978年3月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ヨ) 2344 
裁判結果 認容
出典 労経速報979号6頁/労働判例295号15頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 前示のとおり会社の就業規則には、会社は業務の都合で従業員に対し配転を命ずることができ、従業員は正当な理由がなければこれを拒否できない旨の定めがあり、債権者は入社に際し、会社の就業規則その他諸規程を遵守し誠実に勤務する旨誓約しているところ、(証拠略)によれば、会社の従業員には一般事務職員と一般技工員とがあって、一般事務職員には営業見積、設計、工事等の担当従業員を含むところ、債権者は一般事務職員として採用され、採用時偶々本社の技術本部設計部に人員配置の必要があったため同部に設計担当者として配置されたのにすぎず、採用に際しそれ以上に職種及び勤務地を特定する趣旨の約束はなされなかったこと、右採用時会社の事業所として本社、佐野工場のほか大阪営業所が存在したことが一応認められる。 してみれば会社と債権者の労働契約は右一般事務職員としての担当業務の範囲を逸脱しない限り、会社は業務上の必要により債権者に配転を命ずることができ、債権者は正当な理由がなければこれを拒否できないものとして、締結されたものとみるほかはない。しかるところ本件配転先の大阪営業所における担当業務が右一般事務職員のそれの範囲に属することは、既に述べたところから明らかであるから、本件配転は、会社の業務指揮権の範囲内に属することがらといわなければならない。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 しかしながら、使用者はその業務指揮権の範囲に属する配転命令を行使するに当っても、その業務上の必要性ばかりでなく、本人の意向や配転によって本人が蒙る労働条件上及び生活上の不利益にも十分に配慮して公平にこれを行うべき信義則上の義務があり、労働協約七二条に、「会社は従業員の配属及び転勤、転務については本人の経歴、技能に基づき、かつ本人の意向、生活条件等を斟酌して公正にこれを行う」旨定められていることは当事者間に争いがないところ、これは右の当然の理を明らかにしたものということができる。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 本件配転は、債権者の入社後はもとより略一〇年の長きにわたって未曾有のことであり、その配転先は、債権者にとって生活経験のない遠隔地で、事務所の規模、設備は極めて貧弱であり、一緒に仕事をする者といえばA会社勤務を兼ねた当時六八歳のB所長ただ一人であり、担当すべき業務は債権者にとって経験に乏しく、会社にとっても新たな試みである関西以西方面での販売促進、販路拡大に取り組むことであって、しかも先に認定したとおりその在任期間も未定ということであってみれば、入社後の経歴も浅く、年若い債権者にとってみれば、労働環境及び生活条件の変化と自己の将来に対する不安はまことに無視しえないものがあり、客観的にみても極めて異例にして不利益な配転といわざるをえない。しかも本件配転に伴い、債権者が熱心に志向していた組合活動は事実上ほとんど中断せざるをえないことも明らかである。しかして、債権者がしてきたそれまでの組合活動と債権者が昭和四九年一〇月以来意に副わない設計以外の業務を担当させられていたことなどを考え合わせて、本件配転者として多くの従業員の中で特に債権者が選ばれたことにつき十分な納得がいかない限り、債権者において本件配転を自己に対する不公平な不利益措置としてとらえ、これに反対する態度に出ることは、心情としては十分に首肯しうるところといわなければならない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 会社が債権者の意に反して本件配転命令を強行したことは、会社の業務上の都合にばかり目を向けて、従業員の意向、労働、生活条件等に対する配慮を欠いた措置といわざるをえない。これに対して債権者が本件配転を拒否した理由は、既に述べたとおり厳密な意味では配転拒否の正当理由に当るとはいえないが、少くとも主観的には首肯しうるところが存するのである。してみれば、右の故をもって本件配転命令の無効を来たすか否かはともかく、仮に配転命令としては有効と解するにしても、債権者がこれに従わなかったからといって、会社の経営秩序を維持しその業務執行を正常円滑ならしめるに、債権者を終局的に企業外に排除することが不可欠であるものとはとうてい認め難いところというべく、(証拠略)によれば、懲戒処分にはけん責、出勤停止、減給及び懲戒解雇があると認められるところ、本件につきこのうち最も重くかつ他の処分に比し特段に重大な不利益処分である懲戒解雇をもって臨んだことは、懲戒権の行使として社会通念上著しく公平、妥当を欠くものであって、懲戒権の濫用に当るものといわざるをえない。