全 情 報

ID番号 03350
事件名 勤勉手当請求事件
いわゆる事件名 神戸大学教官勤勉手当請求事件
争点
事案概要  国立大学の教官が対象期間内に四八分間の欠勤があることを理由に人事院規則九-四〇第一〇条別表第一により期間率を一〇〇分の九〇として計算して勤勉手当を減額して支給されたことにつき、著しく不合理であるとして期間率一〇〇分の一〇〇によって算出された額との差額を請求した事例。
参照法条 一般職の職員の給与等に関する法律19条の4第1項
人事院規則9-40(期末手当及び勤勉手当)11条2項3号
体系項目 賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 勤勉手当
裁判年月日 1978年5月11日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (行ウ) 154 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 行裁例集29巻5号921頁/時報903号96頁/タイムズ373号122頁/労働判例299号62頁/労経速報984号12頁/訟務月報24巻5号1120頁
審級関係 控訴審/東京高/昭56. 2.24/昭和53年(行コ)39号
評釈論文
判決理由 〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-勤勉手当〕
 勤勉手当の支給基準として期間率と成績率が定められたのは、勤務成績の評定がややもすれば陥りがちな評定者の主観に偏し公平を失する弊害を排除する見地から、客観的に把握しやすい勤務期間に対応したものとして職員の欠勤等の勤怠状況を示す期間率と所属長の判定による公務への貢献度等の勤務実績を示す成績率の二つの評定要素を具体的基準として定め、これにほぼ同等の重みをもたせることが合理的かつ妥当であるとされたものと解されるのである。以上述べたような勤勉手当制度発足の趣旨、給与法および規則中勤勉手当に関する骨格をなす規定(法条の位置、基準日、対象期間、人事院による基準設定方式、勤務期間の区分等は発足当時、本件当時(および現在)において異なるものもあるが、その内容の実質は同一である。)からみれば、勤勉手当が職員の勤務成績を基礎として定められる業績報償給としての基本的性格を有する給与であると認めることができる。
 勤勉手当がかかる性格の給与であることは、これに関する諸規定と期末手当に関する諸規定を対比検討することにより一層明らかとなる。期末手当は、毎月きまつて支給される俸給等とは異なり、一年のうち予め定められた時期に、特定の日を基準として在職する職員に対し支給される特別の給与である点では勤勉手当と類似し、ただその支給時期が六月および一二月のほか三月も加えられているが、六月および一二月には勤勉手当と同時に支給されるのである。このように、両者は外観上、支給形式および支給時期において共通性を有しているのであるが、給与法一九条の三は期末手当につき在職期間の区分に応じて支給される給与である旨を明記するとともに、給与法二三条二項ないし五項は、公務上の負傷、疾病以外の事由による休職者に対する期末手当の支給割合につき、いずれも毎月支給され生計維持に供せられるいわゆる生活給としての性格を有すると認められる俸給、扶養手当、調整手当、住宅手当の定額給と同様の割合を定めており、これらの諸規定は、期末手当が基本的には生活給または生活補助給としての性格を有することを明らかにしているものということができる。これに対し、勤勉手当については、前記のとおり給与法一九条の四が勤務成績に応じて支給されるものであることを明記するとともに、公務上の負傷、疾病以外の事由による休職者に関しては給与法二三条二項ないし五項に相当する規定はなく、同条六項の適用を受ける結果他の法律に特別の定がない限りこれら休職者は勤勉手当の支給は受け得ないのである。このように、給与法において、勤勉手当は期末手当とは異なり生活給と認められる前記俸給等の給与とは別異な扱いを受けているのであつて、そのことは、勤勉手当の業績報償性を裏付けるものということができるのである。
 (中略)
 勤勉手当の基本的性格を勤怠評価に基づく業績報償として理解するならば無断欠勤・遅刻・早退の有無、多寡が勤怠状況の評価について重要な資料となることは事柄の性質上当然のことであり、この無断欠勤等を勤務期間の算定にあたり消極的に考慮することは合理的であるといえるし、また、これが規則一一条二項三号の趣旨と解される。このことからすれば、六か月間全く勤務を欠いた期間をもたない職員、即ち全期間を無断欠勤等をすることなく皆勤した職員とたとえ一時間でも無断欠勤等のため給与を減額された職員とを勤務期間の取扱において区別し、無断欠勤等のあつた職員を下位に評価し期間率の適用について差異をもうけることにはなお合理性があるというべきである。ところで勤勉手当は、原則として一か月単位で支給される俸給のように正規の勤務時間に対する労働に対して支払われるものではなく、支給対象期間における勤務状況を全体的に把握して業績報償的見地から支給するものであり、その期間も六か月という長期間にわたるから、勤務期間の区分の仕方、この区分と支給割合との対応関係も、欠勤による給与額の減額における欠勤時間と減額率との間におけるような厳格な機械的比例関係を要求するものではなく、勤勉手当の業績報償的性格を没却したり、その区分割や支給割合との対応関係が著しく不合理でない限り、その区分の中で勤務期間に差があつても、支給割合を同一にすることは許されるものと解される。しかして、この勤務期間について、人事院は、本件当時の規則一〇条別表第一において、勤務期間が六か月の場合には、完全なる勤務をしたものとして期間率を一〇〇分の一〇〇とし、勤務期間を全く欠く場合には期間率を零として勤勉手当を支給しないものとし、これを両端としてその中間を一か月間隔で区分し、八段階に区分しているが、これに対応する期間率は勤務期間の一区分ごとに一〇〇分の一〇ずつの割合による逓減の方法をとつているのであつて、業績報償的見地からかかる区分と支給割合との対応関係を特に不合理とすべき事由を見出しがたい。このように勤務期間の区分につき、欠勤のない完全な勤務をした場合を最上位の区分とし、それ以外の勤務期間を一か月単位で区分してこれに対応する期間率を定める場合、一つの区分と他の区分の切れ目の前後においては勤務期間の差異は僅少であるのに期間率の差は画然としてあらわれることはこのような区分割を前提とする限りやむを得ないところである(因に、原告主張のように一日に満たない欠勤を除算すべきでないとの解釈をとつたとしても、一日の勤務時間を八時間とした場合七時間欠勤し一時間勤務したにすぎない者は除算されず期間率一〇〇分の一〇〇の適用を受け、当日全部欠勤した者は一日分として除算され期間率一〇〇分の九〇の適用を受けることになるが、僅か一時間勤務に従事したか否かの差によつて期間率に一〇パーセントの差が生ずることになるのであり、かかる切れ目的現象は避け難いのである。)。本件で原告は一時間の無断欠勤により全期間を完全な勤務をした職員として扱われず、期間率において一〇パーセントの減少をみたのであるが、以上の諸点を考慮すれば、特に全期間を皆勤した者との対比において勤務を欠いた一時間について期間率が一〇パーセントの減少となつたとしてもいまだ勤務期間と支給割合たる期間率との対応が著しく不合理であり、給与法一九条の四が業績報償的給与たる勤勉手当の支給割合の決定基準を人事院規則に委任した趣旨を逸脱しているとまでは認め難い。
 (中略)
 規則一一条二項三号は、給与法一五条による給与減額の事実があれば必ず給与を減額された期間を勤勉手当の勤務期間から除算する旨定めているが、これは、無断欠勤による給与額の減額という客観的事実があればその事由の如何を問わず、その事実のみを勤怠状況の評価における消極的評価要素とみて、その期間を一律に除算し、これを期間率に反映させる趣旨と解される。従つて、規則一一条二項三号の解釈について、給与減額の理由が争議行為による欠勤であつたことは斟酌されないのであるが、仮に原告主張のように争議行為による不就労を通常時の欠勤と別異に取り扱うべきとの立場に立つたとしても、民間企業における従業員と異なり、国家公務員については、国家公務員法九八条二項により争議行為をなすことが禁止されているから(右規定が合憲であることについては最高裁判所昭和四八年四月二五日大法廷判決最高裁判所刑事判例集二七巻四号五四七頁参照)、争議行為参加による欠勤が業績報償的給与たる勤勉手当の勤務期間の算定につき消極的に評価されることは是認されるものというべきである。