全 情 報

ID番号 03356
事件名 従業員地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 日本鍛工事件
争点
事案概要  厳しい受注状況の予測に対処するための経営合理策としてなされた鍛造プレス部門四名、その他作業部門二名、事務部門二名の整理解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
裁判年月日 1978年6月29日
裁判所名 神戸地尼崎支
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ヨ) 119 
裁判結果 一部認容
出典 労経速報994号12頁/労働判例307号25頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 企業は、その経営合理化のために、または悪化した経営の改善をはかるために、必要な措置を随時決定しうる自由を有するものであるが、右のような場合においても、余剰人員を整理解雇するには、特別な企業の事態や経営上の危機の発生に際会し、企業を維持・存立させるための緊急な必要が存することを要するものと解すべきである。整理解雇は、一般に経営上の都合によるものであり、従業員の責に帰することのできない事由により、継続的雇用への期待を裏切り、従業員の生活の基盤を失わしめるものであるから、企業は、整理解雇にあたっては、前記のような必要性を緩和・減少させるべく、その対象人員の縮減に資する相当な諸施策をとるのみでなく、能うかぎり希望退職の方法によるべきであり、そのうえで、やむをえない場合にはじめて指名解雇の挙にでることが必然的に要請せられるものである。それゆえ、人員整理の必要性はかかる段階に即応して検討されるべきであり、人員整理の必要性が存するからといって、他の諸方策を講ずることなく、直ちに指名解雇を行うことは、その必要性を欠くものと認められるかぎり、解雇権の濫用となるものというべきであるが、他面、整理解雇に先立ち、余剰人員の削減を少くするため、遺漏なく全般の措置をとることまで要求されるものではなく、企業の置かれた当該状況のもとで、解雇を回避するために相当と認められる他の諸対策を用いているときは、整理解雇はその効力を否定されることはないものと解すべきである。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 二 本件の場合について考察するに、前示認定の事実によれば、会社は、昭和四九年下期において、従前の経営実績と将来の経営状況の予測からすると(第一、一、(三)、(四)参照)、連続して無配の状態であって多額の繰越損失を抱え、主要取引先の営業不振から受注の減少が見込まれ、早期に経営合理化を実施する必要があったものというべく、昭和四九年一一月以降に決定して順次実行した一連の合理化の緊急措置(第一、二、(一)参照)は右目的達成のためのものとして首肯するに足りる。そして、昭和五〇年二月、会社が本件人員整理計画を立てたのは、会社の当時の資金繰りの状況、生産量や販売額の動向、同業他社に比し従業員一人あたりの生産性が低く、これを高める要があったこと(第一、二、(二)参照)などからすると、余剰の人員として、自然退職等を除き従業員七〇名を削減する必要性があったもので、希望退職の実施後、本件解雇の段階においても、人員整理の必要に迫られていた状況に変化はなく、指名解雇の必要はなお存した(第一、三、(五)、1参照)ものとみるのが相当である。
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 人員整理の実施にあたっては、企業は、組合に対し、その必要性、その実施方法を説明し、可能な範囲で組合の了解と協力を求めるべきであり、このことは、人員整理の性質上、労使間の信義則上当然要求されるところであって、信義則の見地から右協議を尽していないと認められるときは、整理解雇は無効とされるべきであるが、右協議にあたっては、特別な場合を除いて、整理解雇について組合の合意、了解をうることまでの必要はないものと解すべきである。
 二 本件人員整理においては、前示で認定した事実によれば、第一次から第四次までの希望退職の実施については、会社は、組合と連続して協議を行っており、組合の態度は、当初は人員整理に反対して抗議していたが、後には希望退職募集は認めることに変り、未達成の場合に指名解雇は行わないよう求めており、退職勧奨の段階でも、前述のような経過はあったが遂にはこれをやむをえないものと認め、退職条件改定の要求などしているのであり、(第一、三、(一)ないし(四)参照)、次いで、指名解雇の実施にあたっては、会社は、組合に事前にその旨通告するとともに協議をし、組合から指名解雇も認めざるをえない旨の回答に接すると、組合に対して被解雇者名を通告して指名解雇の基準および退職条件につき組合と協議をしているのであるから(第一、三、(五)、4参照)、会社の組合に対する協議については、会社は信義則上要求される義務を尽しているものというべきである。
 三 申請人らは、会社は、第一次から第四次希望退職まで、組合と十分な協議を尽さないまま本件人員整理を強行した旨を種々の点から主張するが、前叙認定の程度の協議をなしていれば、申請人ら主張のような細部の点についてまでの合意がなく、または協議を欠いていても、信義則上要求される協議は尽くしているものと解すべきであるから、申請人らの主張はいずれも採用しがたい。
 また、申請人らは、指名解雇の際、組合の闘争委員会が指名解雇もやむをえない旨決定したことにつき、右決定は無効であると主張するが、会社の組合との協議義務は労使関係の信義則の見地から要請されるものであり、その見地からすれば、会社と組合間に前叙認定の程度の協議があれば足りるものであって、組合の了解、合意をうることは必ずしも必要でないのであるから、会社と組合との間の協議と認めがたい特段の事情のある場合は別として、組合の闘争委員会の決定の効力の如何は、組合内部の意思決定に関するものであって、前述の意味における協議の有無に影響するとは解しがたいところ、本件においては前叙のように会社と組合間の協議と認められるものは存するのであるから、申請人らの主張はさらに判断するまでもなくその理由がない。
 以上の認定判断に反する(証拠略)はいずれも採用することができない。
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 第四 本件整理解雇基準とその適用について
 一 整理解雇基準は、企業がそれによって解雇対象者を選定する客観的規準となるものであるから、合理的であるとともに妥当性があるものでなければならない。そして、整理解雇基準がそのようなものである以上、その適用についても、合理的であるとともに妥当性のあることが要求されるものというべきである。かかる整理解雇基準の設定とその適用が合理性や妥当性を欠く場合には、それに基づいてなされた整理解雇は、正当な事由を欠くものとしてもしくは解雇権の濫用として、無効となるものと解すべきである。