ID番号 | : | 03382 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 昭和自動車事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 懲戒解雇に相当する行為が労働者にない場合に、使用者から懲戒解雇処分になれば退職金もなく、他への就職も困難だろうから任意退職にしてやれると勧められて退職届を提出した労働者が、これが受理された後で退職届を撤回するとしてその効力を争った事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法96条1項 |
体系項目 | : | 退職 / 退職願 / 退職願いの撤回 |
裁判年月日 | : | 1977年2月4日 |
裁判所名 | : | 福岡地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和50年 (ワ) 990 |
裁判結果 | : | 認容(控訴) |
出典 | : | 時報880号93頁 |
審級関係 | : | 控訴審/00427/福岡高/昭53. 8. 9/昭和52年(ネ)80号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔退職-退職願-退職願いの撤回〕 一般に労働者において何らかの懲戒事由がある場合、この者に対して懲戒解雇処分もあるべき旨を告げそうなった場合の利害得失を説いて同人から退職願を提出させ、依願退職のかたちで雇傭契約を解除することはよく見かけることである。このような場合に右懲戒事由が本来懲戒解雇不相当のときにおいては、右示唆が強迫行為(民法九六条)に該当する場合もあり得ると言うべきである。 即ち、前記認定にかかるA所長の言にもある如く、懲戒解雇の場合は通常退職金も出ないし、また労働者の再就職において妨げとなるものであって、これが原告の如く他に雇傭されて賃金を得る以外に生活手段を持たない労働者に与える経済的・精神的打撃は多大なものがあることは容易に推認し得るところである。もっとも真実懲戒解雇相当の行為が労働者にあった場合に、使用者がかかる依願退職をさせることは、いわゆる温情に基づく措置であるとみられ、違法性なしと判断すべき場合が多いであろう。しかし、そうでない場合に、使用者側が懲戒解雇の不利益をもって労働者をおどし、万一にもそのような事態になるのをさけるためには、この際退職願を提出して円満退職の方法で雇傭関係を解消し、退職金も貰って他に再就職を計るほうがまだましであると決意せざるを得ないような状況の下にこれを追い込んで、退職願を提出させたとすれば、労働者の右退職願の提出行為は、違法な害悪告知の結果であって、強迫による意思表示であり取消し得べきものというほかはない。 |