全 情 報

ID番号 03385
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 東京通信工業事件
争点
事案概要  配属になった工場の工場長と個人的にも硬直した敵対関係をもつに至った労務課長の解雇の効力が争われた訴訟事件で、解雇当時使用者が知らなかった事実が解雇権濫用の存否の判断にあたって考慮することができるか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法627条1項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 経歴詐称
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1977年2月18日
裁判所名 山形地米沢支
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ヨ) 17 
裁判結果 却下(確定)
出典 労働民例集28巻1・2合併号30頁/時報867号116頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇権の濫用〕
 本件解雇が解雇権の濫用にあたるか否かについての判断にあたつては、単に就業規則の定める解雇事由に該当するか否かを検討するのみでなく、解雇当時までの一切の事情を綜合斟酌して判断するのが相当である。
〔解雇-解雇事由-経歴詐称〕
 債権者は、債務者に雇用された直後に提出した履歴書に学歴、職歴等につき前記認定のごとく幾多の不実記載をしていたものである。この事実は、債権者が主張するように、解雇当時債務者の主観的に知らなかつた事実であり、従つて解雇通告の際も告知されていないことは当然であるが、そうであるからといつて解雇権濫用の存否につき判断するうえでこれを考慮しえないと解すべきではないのであり、債務者が解雇当時までにこれに気付かず、従つて採用、昇進等を決定するうえでこれを全く重要視していなかつたとの事実は相当程度斟酌すべきであるものの、決して軽視できない不誠実な行為である。
 大学進学率の低かつた時代における有名私立大学の中心的な学部へ入学したとの学歴は、債権者が解雇されずに引き続き勤務していたとすれば、遠からず明るみになり、債務者のような小規模な会社であればなおさらそれなりの高い評価を受けることになつたであろうし、ことにあたかも山形県地方労働委員会の公益委員に任命されているかのごとく装つた経歴詐称は、債権者の幹部職員としての評価、とりわけ債権者の労務問題に関する知識能力を活用するためのその評価のうえで、使用者たる債務者に対し誤つた評価に導き相当の損害を与えずにはおかなかつたであろうと推察せざるをえない。従つて、学歴、職歴等の詐称も、本件解雇を是認すべき客観的に合理的な理由の一であることを失わない。
 (三) 以上(一)、(二)の諸点を綜合斟酌するならば、債務者の行つた本件解雇は、客観的にみてこれを是認すべき合理的な理由があり、解雇権の濫用にあたらず、従つて有効であるというべきである。してみれば、債権者と債務者間の雇用契約は本件解雇によつて終了したということができる。