ID番号 | : | 03388 |
事件名 | : | 処分無効確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 東罐工業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 会社施設内で昼休み中に政党機関誌「赤旗」の購読を勧誘したことが就業規則にいう構内における特定政党の宣伝禁止の規定に違反するとしてなされた出勤停止処分の効力が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法34条3項 |
体系項目 | : | 休憩(民事) / 休憩の自由利用 / 休憩中の政治活動 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 政治活動 |
裁判年月日 | : | 1977年3月25日 |
裁判所名 | : | 横浜地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和47年 (ワ) 1685 |
裁判結果 | : | 一部認容・棄却(控訴) |
出典 | : | 時報863号110頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔休憩-休憩の自由利用-休憩中の政治活動〕 一般に労働者は、就業時間中はもとより、休憩時間中といえども、その勤務する事業場又は事務所内における行動については、使用者の有する右事業場等の一般的な施設管理権に基づく適法な規制に服さなければならない。もっとも、労働者は、通常、休憩時間中も勤務場所における滞留を余儀なくされるものであるから、使用者の管理権に基づく労働者の行動規制も無制限であることをえず、管理上の合理的な理由がないのに不当な制約を課する場合には、あるいは労働基準法三四条三項に違反するものとして、あるいは管理権の濫用として、その効力を否定せられることもありうるというべきである。しかし、管理権の合理的な行使として是認されうる範囲内における規制であるかぎりは、これにより休憩時間中における労働者の行動の自由が一部制約されることがあっても、有効な規制として拘束力を有し、労働者がこれに違反した場合には、規律違反として労働関係上の不利益制裁を課せられてもやむをえないものと解さなければならない(最高裁昭和四〇年(オ)第七九七号賃金請求事件同四九年一一月二九日第三小法廷判決・裁判集民事一一三号二三五頁参照)。したがって、この点に関する原告らの主張は採ることができない。 (三) しかして、叙上の見地に立って、一般の企業体である被告の場合について案ずるに、その就業規則によって規制される政治活動は、施設管理権の合理的な行使の範囲内のものとして、それが喧噪、強要にわたるなど他の従業員の作業あるいは休養を妨げて企業秩序をびん乱し、業務の正常な運営に支障を及ぼし、または、かような結果を招くおそれが著しいものに限られるというべきである。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-政治活動〕 本件において、原告X1がAに対して購読を勧誘した「赤旗」が共産党中央委員会発行の同党機関紙であることは当事者間に争いがなく、かつ、同紙が共産党の主義、主張を載せた文書であることは公知の事実であるから、右「赤旗」の購読を勧誘する行為は、形式的には特定の政党の勢力拡張を目的とした「宣伝」にあたるということができるであろう。しかしながら、前認定のような原告X1の勧誘行為の意図、態様、時期等から推せば、右勧誘行為は、共産党の主義、主張に同調を強要したり、入党を勧めたりするなど同党の勢分拡大のための積極的行動を伴なったものとも窺えず、単に休憩時間中における数分間程度の会話にとどまったものと認めざるをえないから、これが被告の職場秩序を乱したり、生産活動を阻害したりするものでなかったことはもちろん、そのおそれの著しいものでなかったことも明らかというほかはなく、同行為をもって、就業規則第一一条一号の「宣伝」に該当するということはできないと解すべきである。 四 以上の次第であるから、原告X1の勧誘行為についても、これが就業規則に該当する行為とは認められないから、所詮、被告は右規則の適用を誤ったものといわざるをえず、したがって、原告らに対する本件懲戒処分は、いずれも処分理由がなく、無効のものといわなければならない。 五 原告らに対する本件懲戒処分がいずれも無効たるを免れないことは上述のとおりであり、また、原告X1、同X2各本人の供述に徴すれば、被告が昭和四七年八月二九日厚木事業所内の掲示板に本件懲戒処分を告示したことが認められるから、原告らがそれぞれ、被告の少くとも過失に基づく本件懲戒処分、ひいて、その掲示により右処分が従業員に周知させられたために、精神上の苦痛を蒙ったことは容易に推認されるところである。しかして、本件に顕われた諸般の事情を斟酌すると、原告らに対する慰藉料は各金三万円とするのが相当である。 |