ID番号 | : | 03411 |
事件名 | : | 地位保全仮処分申請認容事件 |
いわゆる事件名 | : | 東北日産電子事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 出向命令拒否、職場離脱、ビラ配布等を理由として組合役員らが懲戒解雇された事件でその効力が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法625条 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職場離脱 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒解雇の普通解雇への転換・関係 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続 |
裁判年月日 | : | 1977年9月14日 |
裁判所名 | : | 福島地会津若松支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和50年 (ヨ) 36 昭和50年 (ヨ) 69 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働判例289号63頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 矢邊學・労働判例306号4頁 |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の根拠〕 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕 民法六二五条の趣旨によれば、雇傭契約上の権利義務は一身専属的性質をもつものと思われ、使用者は、特段の合意がない限り、自己の指揮命令の下においてのみ労働者に労務の提供を命じうるにとどまり、労働者も、雇傭契約においてあらかじめ同意し、あるいはその後に個別的に同意しない限り、当該使用者の指揮命令下において、右使用者のためにのみ労務を提供すべき義務を負うにすぎないものと解される。 前記1の(四)において認定した事実によれば、債権者穴沢が本件の出向命令に同意しなかったことは明らかであり、また、本件全証拠によっても、同債権者があらかじめ出向に同意していたことを疎明する証拠はなく、結局、本件出向命令は同債権者に対する拘束力を持たないから、これを拒否したからといって懲戒処分に付することはできない。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒解雇の普通解雇への転換〕 懲戒解雇の意思表示が無効とされる場合これを普通解雇の意思表示に転換することはできないと解される。なぜならば、懲戒解雇と普通解雇とでは、その根拠、要件、法律効果が互いに異なっているから前者としての意思表示に後者の意思表示が当然に含まれていると考えることはできないし、解雇の意思表示のような単独行為についていわゆる無効行為の転換を認めると、相手方の地位を著しく不安定なものとするから適当でないうえに、実際上の見地から言っても、このような転換が認められることになれば、安易に懲戒解雇を行なう傾向を招き、ひいては懲戒権の濫用を誘発するおそれがあるからである。 そうすると、同債権者に対する解雇は、普通解雇としても効力をもたず、債務者と同債権者との間には、なお雇傭契約が存続しているものと一応認められる。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職場離脱〕 また、1の(一)の(8)から(10)までの職場離脱は、同(7)及び(10)冒頭に掲記の労働争議中のことであり、いずれも始業時前に債務者側の担当者と面会するうちに長びいて就業時間にくいこんだものであるが、一回あたり約三〇分間にとどまっていたこと、(8)については、債務者側が予定していた団体交渉を直前に急に変更したことから、その釈明と抗議の結果職場離脱となったこと、(9)については、当日の団体交渉について確認、要求のために行ったこと等も明らかにされており、これらの事実を総合して勘案すれば、これらの職場離脱は、その回数、態様、それに伴うけん騒等を考慮に入れても、その違法性が重大であるとは言えない。 (なお、同(11)の職場離脱については、本件全証拠によっても、日にち、態様、時間等について特定することはできず、懲戒処分の基礎とすることはできない。) 以上のほか職場離脱に対して、使用者はいわゆる賃金カットで対処しうることをも考慮に入れれば、前示1の(一)の(2)から(4)まで、(8)から(10)までの職場離脱は、違法との判断を受け、他の態様の懲戒処分を受けることの理由となりうるかは格別、これらのみの事由で懲戒解雇処分に値するとは考えられない。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕 (二) 次に前示1の(二)のビラ貼りの点を考えてみる。 職場内の貼付を禁じられた場所にビラを貼り付けることが職場の秩序、平穏を乱すものであることは否定できないが、ビラを貼ったり配布したりすることは、労働組合活動のごく通常の方法の一つであるから、これが職場規律違反として懲戒処分の理由となりうるか否かは、そのなされた経緯、場所、方法、回数、ビラの内容、その他を総合して、使用者が被る業務運営、施設管理上の支障の程度、労働組合側の必要性の程度を勘案して判断すべきものと解される。 本件について右の点を見ると、前示一の(二)において認定したところによれば、債務者ら同労組で貼付したビラの枚数は百枚を越える多量のもので、債務者の施設の相当広範囲にわたって貼付されたことが認められるが、同(2)に認定したような労働争議の行き詰まり状態の中で、組合員個々人の意見を債務者に伝えるとの目的で企図されたこと、貼付の仕方はワラ半紙をセロハンテープで貼りつけたにとどまり、容易にとり外しのできる状態にあったこと、債務者の側で現に容易に撤去できたことが認められ、同組合でビラを貼付するに至った経緯が前認定の通りであることからすれば、組合員らが、自己の要求や意見を会社側にビラによって訴えようとする心情も首肯できないではなく、その意味においてビラ貼付の必要性があったと考えられるのに対し、これによって債務者の施設管理にはさほど重大な影響を与えたとは考えられない。 もっとも、そのビラの一部には良識を逸した誠に不穏当な内容を含むものがあったことも認められるが、これらのうちのあるものが債権者らのうちの一部の者によって撤去されたことに照らせば、そのような不適当のものの貼付まで債権者らが意図していたとは考えられず、債務者側が債権者らに対し、いわゆる労働組合の幹部責任を問うていないことの明らかな本件においては、債権者らにその責任があると解するのは困難である。 そうすると、本件のビラ貼付は、1の(二)の(1)において認定した事実を考慮に入れても、懲戒解雇に値するような違法性があるとは断じ難い。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕 就業規則なるものは、使用者が一方的に制定するものではあるが、ひとたびそれが制定されれば、一個の法的規範として関係者に対し一般的妥当性を有し、企業の構成員はすべてその拘束を受けるに至り、制定者たる使用者もその例外ではなくなると考えられる。このことに鑑みれば、就業規則の定める手続に違反してされた懲戒処分は、その手続違反が軽微であって結果に影響を与えないような特別の場合を除き、無効であると解される。 |