全 情 報

ID番号 03419
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 ナカヨ通信機本訴事件
争点
事案概要  前橋工場から札幌営業所への転勤命令拒否を理由とする懲戒解雇につき、高血圧症の母を看護していることについての配慮を欠いており、右転勤命令は無効であり、右解雇も無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1977年11月24日
裁判所名 前橋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ワ) 241 
裁判結果 認容
出典 労働判例293号69頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 1 前記認定によると、本件転勤命令の業務上の必要性は十分認められるが、本件転勤命令が原告の生活関係に重大な影響を与えることもまた認められる。すなわち、原告の母親の病状は軽視することのできないものであり、原告ら家族の経済的能力からみて、原告には、家を遠く離れることのできない事情が存したということができる。また、右の事情と前橋工場における転勤の実態に照らすと、原告が交渉の過程で被告会社に述べた要求は切実なものであったということができる。これに対し、被告会社は、通り一遍の判断で原告の合意を得ることもなく転勤が可能であるとし、原告が転勤不能の理由を説明するのを原告のわがままとみて軽視した結果、原告に対し、転勤に応ずるための生活上の困難を克服する時間的余裕も与えず、また原告の切実な要求にも十分答えるところがなかったということができる。
 本件転勤命令が、当事者間の労働契約において予定された労務指揮権の範囲内にあるとしても、転勤を命ぜられる労働者の側にも転勤の可能性について種々の事情があり、被告会社は自己の事業の必要性とともに、労働者側の事情に十分な配慮を惜しんではならないのであり、このことは就業規則一二条自体も定めるところである。被告会社が業務の都合にとらわれ、原告が最も大事に考えていた事情を顧慮しなかった本件転勤命令は、信義に従い誠実になされた労務指揮権の行使とは認められず、結局その法的効果を生じないというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 2 昭和五〇年二月二二日被告会社が原告の本件転勤拒否行為は就業規則一二八条一一号に該当するとして原告を解雇する旨意思表示をしたことは当事者間に争いはない。右解雇は形式的には通常解雇の形態をとっているが、その実質は懲戒解雇と認められる。
 ところで本件転勤命令が無効であることは前記のとおりであり、結局原告は本件転勤命令を拒むことができるのであるから、本件解雇がその要件を誤認した無効のものであることは明らかである。
 八 被告会社は、原告が転勤できる可能性について真剣に検討せず、又不能の理由を充分説明せず正当理由を主張するのは、信義則上または禁反言の法理に照らし許されないと主張する。しかし、前記認定のとおり、前橋工場においては会社側も従業員の側も転勤については普段の用意が十分でなかったことは認められるが、本件全証拠によるも、特に原告が労働契約上の信義則または禁反言の法理に反したとの事実を認めることはできず、当事者間の交渉経過に照らすと、原告は、本件転勤命令の生活関係に及ぼす深刻な影響を父兄とも検討し、また、組合からも転勤に応ずるよう説得されていた状況の中で、被告会社に対し、具体的事実を述べて転勤不能を主張していたのであって、被告会社がこれを誠実に受け止める姿勢を有していたならば、原告の主張が単なるわがままでなかったことは容易に看取しえたものと認められる。
 以上の次第で被告会社の右主張は採用できず、原告は、なお被告会社に対して雇用契約上の権利を有すると認められる。