全 情 報

ID番号 03420
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 陸上自衛隊第一教育団事件
争点
事案概要  野営訓練中の自衛隊員が落石により死亡した事故につき、国に安全配慮義務違反があったとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1977年11月29日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ワ) 8207 
裁判結果 一部認容・棄却(確定)
出典 時報896号62頁/タイムズ365号282頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 国は、一般的に国家公務員に対しその遂行する公務の管理にあたって、国家公務員の生命および健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っているから、本件において国が右安全配慮義務を尽したか否かについて検討する。
 前記認定の事実によれば、第三〇二通信教育中隊では、本件野外訓練場に大麦広場を選定するに際し、同中隊運用訓練幹部が現地を調査し、次いで野外訓練実施部隊長も事前に同地に赴いてはいるが、その調査は、現地で付近の状況を観察し、同地の管理事務所で事情を聴取したという程度である。確かに前記認定のとおり、大麦広場は一般に開放されている場所であり、大麦山には具体的に差し迫った落石の危険を推知せしめるような徴候はなかったと認められるので、広場の使用の態様いかんによっては右の程度の調査でも十分と考えられるが、もともと大麦山は道路脇のかなり急勾配の山で、その東裾は山を削り三・九米の石垣を積んで道路をつけたものであり、落石の心配のないような山ではなかった上に、当時は降雨量がさほど多くなかったとはいえ梅雨のため地盤がゆるんでいたと推認しうる時期であり、しかもその山麓で野営をしようとする以上、前認定のような簡単な調査をしただけでは安全管理上の注意義務を尽したとは言えない。本件においては、道路面から山膚を見にくい状況にあるので、山の表面部の状況を調査するためには(本件の岩石は、土砂を伴って崩落した訳でなく、その相当部分は地表に露顕していたと推定できる。)、大麦広場側斜面を現実に踏査するか、樹木下草の繁茂のためそれが困難であったとすれば、山の勾配の程度、当時は梅雨明け直後で訓練当日およびその前数日間においても降雨があったこと等から、少くとも落石の危険を避けて天幕の展張位置をもっと小河内貯水池側に寄せる等の措置を講ずべきであったものと言わざるをえない。そうであれば、その余の点につき判断するまでもなく被告は安全配慮義務を怠ったと言うべきである。