ID番号 | : | 03422 |
事件名 | : | 謝罪広告請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 泉屋東京店事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 懲戒解雇の事実およびその理由を記載した文書を従業員に配布し、かつ社内に掲示したことが名誉毀損にあたるとされた事例。 |
参照法条 | : | 民法709条 民法720条 民法723条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 信義則上の義務・忠実義務 |
裁判年月日 | : | 1977年12月19日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和47年 (ワ) 3119 |
裁判結果 | : | 一部認容 |
出典 | : | タイムズ362号259頁/労経速報988号22頁/労働判例304号71頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 小西国友・労働判例314号15頁/小西国友・労働判例315号12頁/小西国友・労働判例316号14頁 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-信義則上の義務・忠実義務〕 4 以上の事実によれば、通常人が前記のごとき方法で本件各文書の配布、掲示を受ければ、これによつて、原告らがその勤務上もしくは組合活動上、不正な行為を専らにする卑劣な人間であるとの印象を受けるであろうことは容易に想像しうるところであり、これに前記3の事実から推認しうる本件各文書の配布掲示についての多分に陰湿ともいうべき被告の原告らに対する非難ないしは中傷の意図の存在をも考慮すると、被告のなした本件各文書の配布、掲示行為は、原告らが前記理由一の社内生活上の地位等に伴つて有していた社会的評価を低下させたものであるといわざるをえず、従つて原告らは、被告のなした本件各文書の配布、掲示行為によりその名誉を毀損されたものと認めるのが相当である。 三 次に、被告は、本件各文書の配布、掲示が正当な業務行為であること、もしくはかかる行為に出ないことを期待する可能性のないことを理由としてその違法性が阻却される旨主張するので判断する。 1 一般に、解雇、特に懲戒解雇の事実およびその理由が濫りに公表されることは、その公表の範囲が本件のごとく会社という私的集団社会内に限られるとしても、被解雇者の名誉、信用を著しく低下させる虞れがあるものであるから、その公表の許される範囲は自から限度があり、当該公表行為が正当業務行為もしくは期待可能性の欠如を理由としてその違法性が阻却されるためには、当該公表行為が、その具体的状況のもと、社会的にみて相当と認められる場合、すなわち、公表する側にとつて必要やむを得ない事情があり、必要最小限の表現を用い、かつ被解雇者の名誉、信用を可能な限り尊重した公表方法を用いて事実をありのままに公表した場合に限られると解すべきである。そして、この理は、不法行為たる名誉毀損の成否との関係では、当該被解雇者に対する解雇が有効か無効か、解雇理由とされる事実の存否には係わらないものというべきである。 (中略) 4 右23の事実によれば、本件各文書の配布、掲示当時、本件各文書に記載された程度の原告らの懲戒解雇の事実およびその理由については被告の従業員の一部は既にこれを知悉していた可能性が大であること、被告と組合が原告らの解雇をめぐつて対立するに至り、被告の側で、被告に対する従業員の信頼を維持するため、本件解雇についての被告の公式見解を従業員に対して公表する必要に迫られていたこと、本件各文書に記載された原告らの懲戒解雇の理由とされる事実はその表現の適否は別としてほぼ真実に合致していたことが明らかである。 しかし、前記理由二の2ないし4の事実から明らかな原告らが重大な不正行為をなしたことによつて懲戒解雇されたかの印象を与える本件各文書の内容、半ば強制的ともいえるその配布、掲示の方法、その配布掲示にあたり原告らの名誉の尊重を顧りみない被告側の意図をも考慮すると、結局本件各文書の配布、掲示は、特にその公表方法、さらにはその公表内容において社会的に相当と認められる限度を逸脱しており、前記1の懲戒解雇の事実およびその理由の公表の違法性が阻却される場合には該当しないというべきである。 |