全 情 報

ID番号 03424
事件名 従業員地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 日本国有鉄道事件
争点
事案概要  いわゆる沖縄闘争に関連する刑事犯で刑罰を受けたことを秘匿して採用され、採用後も同種の犯罪容疑で逮捕された国鉄職員に対する免職処分の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
日本国有鉄道法29条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 経歴詐称
裁判年月日 1976年1月13日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ヨ) 1259 
裁判結果 却下(確定)
出典 時報813号92頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-経歴詐称〕
 国鉄法二九条三号にいう「職務に必要な適格性を欠く場合」とは、当該職員の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、能力、性格等に基因して、その職務の円滑な遂行に支障があり、または支障を生ずる高度の蓋然性が認められる場合をいうものと解される(最高裁判所昭和四三年(行ツ)第九五号、同四八年九月一四日第二小法廷判決、民集二七巻八号九二五頁参照)けれども、被申請人が、従前国においてその行政機関を通じて直接に経営してきた鉄道事業を中心とする事業をそのまま引き継いで経営し、その能率的な運営によりこれを発展させ、もって公共の福祉を増進することを目的として設立された公法上の法人であり(国鉄法一条、二条)、その資本金は全額政府の出資にかかり(同法五条)、事業規模も全国的かつ広範囲にわたるなど、極めて高度の公共性を有し、公共の利益と密接な関連を有するため、その事業の円滑な運営の確保と並んでその廉潔性の保持が社会から要請ないし期待されている企業体である(最高裁判所昭和四五年(オ)第一一九六号、同四九年二月二八日第一小法廷判決、民集二八巻一号六六頁参照)ことに鑑みれば、そのような廉潔性が要請ないし期待される企業体の職員としての適格性は、単に精神的肉体的な原因に基いてその職務の専門的技術的処理能力を欠く場合だけでなく、国鉄に対する社会からの廉潔性の要請ないし期待を損うおそれのあるような反社会的事由の存する場合にも、これを欠如するものと認めざるを得ない。
 (中略)
 以上のような事実関係からすれば、申請人が、被申請人に採用された時点においてはもちろん本件免職処分の当時においても前記欠格条項に該当していたことは明らかであり、しかも、その欠格事由の内容である前科は極めて反社会的性格の濃厚なものといわざるを得ないばかりでなく、申請人はことさらにこれを秘匿し、また、学歴・職歴をも詐称して被申請人に雇用されたものであり、かつ、その後間も無く、同種の事件に関係して逮捕勾留されたものであって、これらの諸事情をあわせ考えるならば、本件免職処分当時、申請人は国鉄法二九条三号にいう「職務に必要な適格性」を欠く者に該当していたと認めるのが相当であるとともに、被申請人が同法条に基く降職処分を選択することなく、免職処分を選択したことについても、何ら裁量権の逸脱はないといわざるを得ない。