全 情 報

ID番号 03437
事件名 地位保全仮処分事件
いわゆる事件名 蔵田金属工業事件
争点
事案概要  島根県の工場に製造工として勤務する現地採用の従業員らについて、不況による人員削減を理由に遠方の本社開発部に集団配転したケースでの効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
裁判年月日 1976年3月16日
裁判所名 松江地
裁判形式 決定
事件番号 昭和51年 (ヨ) 16 
裁判結果 認容
出典 時報819号99頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 申請人三〇名につき入社の事情をみると、学校を新規に卒業して直ちに入社したものが二名あり、その余の者のうち、まずごく少数は大阪方面等で稼働していたが郷里の近くに被申請会社の工場が新設され工員を募集していることをきいて、従前の勤務先を辞めて三刀屋工場で働くようになったもので、残余の大部分は、農業に専従していた者、農業の傍ら土工等臨時雇の仕事をしていた者、農業をしながら近辺の小規模企業で稼働していた者が、農業への従事を維持しつゝ現金収入の途を求めて被申請会社に入社したものである。申請人らがいずれも自宅に居住して家族と同居しつゝ三刀屋工場に通勤して稼働していることも当然の成行である。そして申請人全員が三刀屋工場の工員として働くということで応募しかつ被申請会社が採用し、現在までこの就労形態が継続されてきたものである。
 以上の事実を基に申請人らと被申請会社との各労働契約をみれば、申請人らはいずれも就労の場所すなわち労務提供の場所を三刀屋工場とし、かつ提供すべき義務の内容を工員としての技術、技能、投入作業量とすることを、労働契約の要素とし、これを内容としているものといわざるをえない。
 (中略)
 申請人らは、いずれも入社に際し、「会社の都合により何時、転勤、出張を命ぜられ、又は労働協約、就業規則の定める処により解雇されても異存はありません」旨の誓約書を差入れていること、またA、Bに対する各審尋によると、就業規則(この就業規則は疏明として提出されていないが)にも右と同旨の包括的転勤同意条項があることが認められるのであるから、右の転勤同意文言により労働契約内容の変更につき申請人らが事前に包括的承諾をしているとみる余地があるかの如くみえる。しかし右にみた誓約書ないし就業規則の記載は、広狭さまざまの、例えば営業一係から二係への配転というものから社長秘書から掃除婦への配転というものに至るまで、企業の遂行過程に伴って生じうる多様の配置転換に一般的に備え、その可能性を示したにすぎないものであって、個別、具体的な配置転換のできる範囲は、個別の契約でその外延を画されているものすなわち労働契約の要素か否かで可否が決せられるものといわざるをえず、従って前示誓約書や就業規則の記載は、配転命令という名の労働契約内容変更申込に対する承諾に代置されるべきものではない。