全 情 報

ID番号 03443
事件名 損害賠償請求事件/損害賠償反訴請求事件
いわゆる事件名 郵政省職員事件
争点
事案概要  郵便局のアルバイト労働者が仕事に関連して正職員から暴力をうけた事件につき、職責上部下を指揮監督する者には、職場内の人的な面における秩序維持義務があり、右暴力による損害賠償請求に関する国の使用者責任が認められた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法623条
民法709条
民法715条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1976年3月31日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (ワ) 4212 
昭和49年 (ワ) 7502 
裁判結果 一部認容・棄却
出典 タイムズ344号253頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 三 次に、被告国の責任を考える。
 さきに認定したとおり、A主事は、原告と被告Yの口論を現に認識しており(同人の証言によると、両者ともかなり興奮していたことが認められる)、そして原告らが洗面所へ赴いたとき、不審に思つて様子を窺うべく自らをそのように律している。そうすると、A主事は、両者があるいは喧嘩闘争に発展するであろうことを予見しえたはずだと思う。
 ところで、職責上部下の指揮、監督に当るA主事(このことは、同人の証言により認められる)には、人的面においても職場内の秩序を維持する責任があると解せられる(法令上の根拠は別として、部下を指揮、監督する地位にある以上これに附随して当然にかような職責をも有すると解する)から、職場の秩序を紊乱する職員間の喧嘩口論、闘争に至つては、もとよりこれを未然に防止する職務上の義務があるといつてさしつかえないと考える。
 したがつて、A主事としては、被告Yの何んでもないという言葉をうのみにせずに、直ちに両者に対し持場に復帰するよう命ずるとか、あるいは両者が洗面所の方へ歩き出した際に、不審に思つたからには直ちに制止させ詰問する等し、少くとも原告が洗面所に赴く理由を問い質し、正当な理由がなければ持場に帰るよう注意する等し、喧嘩闘争を未然に防止すべきであつたというべく、しかるにA主事は、かかる処置を何んら講じないのだから、監督者として要求される注意義務を怠つたものといわざるをえない。そして、かかる処置をなしていたならば、本件の喧嘩闘争を防ぐことができたであろう。そうすると、A主事の右のような不注意も重なつて、原告らの喧嘩闘争に発展したとみられるから、被告国もやはり民法七一五条に基づき、原告の被つた損害を賠償する義務があると解する。