ID番号 | : | 03444 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日産自動車事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 事業附属寄宿舎ではない工場独身寮の入寮者の病死につき、会社には看護をうけ療養することができるようにすべき安全配慮義務があり、右義務違反を理由とする損害賠償請求が認容された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法415条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 |
裁判年月日 | : | 1976年4月19日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和44年 (ワ) 7073 |
裁判結果 | : | (確定) |
出典 | : | 時報822号3頁/タイムズ339号177頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 角田邦重・労働法の判例〔ジュリスト増刊〕50頁/中嶋士元也・昭和51年度重要判例解説〔ジュリスト642号〕214頁/渡辺章・判例評論220号38頁/堀野紀・労働判例254号13頁 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕 5 ところで、前記の二の1で認定した事実によると、村山寮は、被告会社の事業運営に密接不可分な関連性を有する労働基準法にいわゆる「事業の付属寄宿舎」ではなく、被告会社の福利厚生施設として建設された共同住宅といわざるを得ない。しかしながら、前記認定のとおり、村山寮は村山工場の敷地内にあって、そのうち五棟が独身寮であり、被告会社が村山寮に居住する従業員のうち無断欠勤をした者に対し寮管理人を通じ出勤を促していることに照らすと、村山寮は被告会社の事業運営に少なからず関連性を有しているものというべきである。そのうえ、Aは、高等学校卒業後初めて茨城県新治郡の親元を離れて寮生活にはいり、独身かつ未成年者であった(この事実は、原告X1、同X2の各本人尋問の結果により認められる)。また、被告会社が新規採用内定者の父兄に対する説明会を開催した際、担当者が父兄に対し採用者の生命および身体の安全確保に十分努める旨述べていることは前記認定のとおりである。 このような村山寮の機能・目的・入寮者の年令等、前記の事実関係に照らして考察すると、被告会社は、寮の物的人的設備を整備し、仮に入寮者が勤務と関係ない原因に基づき発病した場合であっても(A発病の原因が勤務に起因するかどうかについては立証がないが、Aが専ら自己の不摂生により発病したことについても立証がない)、入寮者との間の雇傭契約に附随する信義則上の義務として、入寮者が通常期待できる看護を受け療養することができるよう配慮するべき義務があると考えられる。従って、寮設置者(被告会社)の履行補助者であるB管理人は、前記認定の事実関係にある本件においては、担当医師Cの指示を忠実に守り前記錠剤(抗生物質)を指示されたとおりAに服用させ、Aの病状の推移を的確に把握できる態勢を確立するよう措置し、病状悪化に際しては直ちに担当医師に連絡をしてその指示を受けて行動し、不測の事態発生を未然に防ぐことができるよう配慮をすべき義務がある。 6 しかるに、被告会社の履行補助者であるB管理人は、前記のように、C医師から指示された抗生物質(錠剤)を指示された時刻にAに服用させる努力を怠り、Aが前記認定の状態のもとで第二回目以降の錠剤の服用を拒否しているのに指田医師の指示を受けて行動をするなどの措置をとることなく、さらに一〇月二二日は同室者(D)が夜勤のため一人で夜を過ごさなければならないことを知りながら、同僚をAと同室させるなどの配慮をすることなく、近くの在室者にAの容態を説明しその動静に注意してくれるよう協力を求めることもしないで、Aを前記四一四号室に一人で残したまま退室したのである。 してみれば、被告会社は、少なくとも右の点において、入寮者(A)発病の場合に、入寮者に対しこれを看護し療養することができるよう配慮すべき前記義務(被告会社とA間の本件雇傭契約に附随する信義則上の義務)を履行しなかったといわなければならない。 |