ID番号 | : | 03492 |
事件名 | : | 従業員地位保全事件/金員支払仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本精線事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 現場作業員見習は高卒以下しか採用しないことを知りながら大学中退の経歴を秘匿して採用され、経歴詐称で諭旨解雇された者がその効力を争った事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 経歴詐称 |
裁判年月日 | : | 1975年10月31日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和48年 (ヨ) 1324 |
裁判結果 | : | 却下(控訴) |
出典 | : | 時報807号99頁/タイムズ334号347頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-経歴詐称〕 使用者が労働者を採用するにあたって履歴書等を提出させてその経歴を申告させるのは、労働者の全人格的判断を行うための資料とするほか、採用後における労働条件の決定、労務配置の適正を図るための資料に供するためであるから、労働者が採用されるにあたって虚偽の経歴を申告することは、その者の不信義性を示し、労使間の信頼関係の破壊を意味する。労働契約は継続的労務供給関係たる性質上、使用者と労働者との間の強度の相互的信頼関係に基礎づけられ、右信頼関係なくしては契約の維持はおろか契約の締結すら実現を期しえないものである。したがって労働者が使用者の行う採用試験を受けるにあたり、使用者側から調査、判定の資料を求められた場合には、できるかぎり真実の事項を明らかにして信頼関係の形成に誤りなからしめるように留意すべきは当然であり、このことは労働契約を締結しようとする労働者に課せられた信義則上の義務である。労働者が使用者から問われた経歴について真実を記載し又は申告することも、右の観点から要請されるところである。 それ故、試用期間中の従業員について経歴詐称の事実が発覚した場合において、使用者が前記留保された解雇権を行使して当該労働者を従業員として不適格と認め解雇することは、その詐称された事項が当該企業における当該職種の従業員の合理的採用基準に照らし重要でないとか、経歴詐称が労使間の労働契約関係を維持することを著しく困難ならしめる程のものでないと認められるような場合を除き、正当として是認されるべきである。 これを本件についてみるに、 (1)、《証拠略》によれば、会社は昭和三八年一月より職能資格制度を採用し現場作業員見習は高卒者以下の学歴者のうちから採用するという方針を堅持して今日に至っており、申請人の最終学歴が当初から判明していたならば従業員として採用しなかったであろうこと、会社においては現場管理職の大部分は高卒以下の学歴者から採用されており、それ以上の学歴を有する者を右現場管理職の下に配置することは労務管理上支障を来すことが右方針の根拠とされていることが疎明される。又、高学歴者は現場作業の画一的な単調労働に対する耐性を欠き勝ちであり十分な作業能率を期待しえないおそれがあること、高学歴者が当初は現業職としての待遇を容認していても、時日の経過により工員としての待遇について不満感が発生しやすいことは一般経験則上明らかであることを前認定事実と合わせ考えると、会社が現業職は高卒以上の者を採用しないという方針をとっていることをもって不合理と評価することはできない。そうとすれば申請人が詐称した最終学歴の点が会社の現業職採用基準に照らし重要でないとは言えず、右詐称は就業規則所定の懲戒事由としての「重要な経歴」に関する詐称に該当すると言わざるを得ない。 会社が職能資格制度をとっている関係上、かゝる経歴の持主を会社においておくわけにはいかないという判断の下に、本来なら懲戒解雇になるところ、会社は申請人の将来を考え自主退職を再三勧告したが、申請人がこれに応じなかったこと、申請人が最終学歴の重要性及び「大学中退」と記入すれば採用されるのが極めて困難になることを十分認識しながら、故意に最終学歴を記入しなかったこと、申請人が採用されてから解雇まで約八カ月にすぎないこと及び学歴経歴詐称の程度から判断すれば、会社が申請人を従業員として不適格と認め解雇したことは、前記就業規則の条項所定の要件を充たすものであって有効というべきであり、これを解雇権の濫用であるとする申請人の主張は採用することができない。 |