全 情 報

ID番号 03497
事件名 業務命令効力停止仮処分申請事件
いわゆる事件名 旭精機工業事件
争点
事案概要  プレス機械等の製造販売を行っている会社において機械工として平削盤(プレーナー)の担当から、あまり熟練を要しない面取り、バリ取り作業へ配置換えされ、ついで、その作業をも奪われ、就業時間中机に向ってイスに座ったまま一切の業務に従事してはならない旨の命令を受け、約一〇カ月の後、第二技術部での勤務を命じられたことについて、会社の右業務命令の効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
民事訴訟法(平成8年改正前)760条
民事訴訟法(平成8年改正前)232条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
配転・出向・転籍・派遣 / 配転・出向・転籍・派遣と争訟
裁判年月日 1975年11月26日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ヨ) 1415 
裁判結果 認容(控訴)
出典 時報816号93頁
審級関係
評釈論文 小西国友・判例評論217号40頁
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転・出向・転籍・派遣と争訟〕
 訴の変更に関する民訴法二三二条は、訴の変更による原告の便益及び訴訟経済と被告の防禦権の保護との調整を図ることを目的とする規定であるというべく、この規定の趣旨は保全訴訟においても尊重されなければならないことは多言を要せず、保全訴訟における申請(申請の趣旨ないし申請の理由)の変更にも同条が準用されると解すべきである。そして、同条一項にいう請求の基礎に同一性があるというがためには、新旧両請求間の主要事実の全部又は重要部分が共通するなどして各請求の基礎となる利益紛争関係が同一のものとみられ、そのため旧請求の訴訟資料や証拠資料をそのまま新請求の審理に継続利用することを合理的ならしめる程度に各請求間の事実資料に一体性、密着性のあることが必要というべきである。
 そこで、まず本件第一次ないし第三次各申請における被保全権利につき考えるに、第一次申請における被保全権利は本件不就労命令の付着しない労働契約上の権利を有する地位であると考えられるが、第二次申請においては本件配転以前の職場即ち製造課における労働契約上の権利を有する地位を被保全権利とし、さらに第三次申請においては製造課内における具体的職務を有する地位の確認を被保全権利としているものである。右各申請における被保全権利は完全に一致しているわけではないがいずれも申請人の製造課における労働契約上の権利そのもの或いは右権利の具体的内容であるという点において相互に共通の基盤をもつものといえる。しかも、申請人は本件各業務命令の無効原因として当初より一貫して不当労働行為、思想、信条による差別、権利濫用の各事由を主張しており、申請人、被申請人間の労使関係の一連の流れの中で近接して発せられた三個の本件各業務命令はいずれも申請人に対する差別待遇であるというのが申請人の主張の主眼点であって、申請人に対する差別待遇を排除し製造課における労働契約上の地位を安定せしめるということが申請人が一貫して本件仮処分申請において追求するところの社会生活上の利益であると解される。本件各業務命令がそれぞれ単独で争われた場合も残る二個の業務命令の不当労働行為性が一間接事実として主張、立証されるところであるといえるし、また保全の必要性についても職場内での差別の早期徹廃という点が最大の理由である点で共通している。
 以上のことから本件第一次ないし第三次各申請の基礎となる利益紛争関係は同一のものとみるべきであり、右各申請の基礎には同一性があると解される。
 次に、本件職務換えについて被保全権利との関連を有するという意味でその無効が主張されたのは第三次申請時が最初であるが、既に申請人は第一次申請において本件不就労命令に至る経過の中で右職務換えについて述べ、かつ、その不当労働行為性を主張しており、被申請人もこれを争いその合理性につき反論を加えてきたのであり、結局第二次申請以後新たに重要な争点として付加されたのは本件配転の効力についてのみであって、しかも右配転が本件仮処分申請(昭和四七年一二月五日)後になされたもので、前述のとおり本件不就労命令、本件職務換えと関連性を有し、従前の事実資料をこれに利用することが合理性を有すると解される以上、本件各変更が著しく訴訟手続を遅滞せしめるものともいえない。
 したがって、本件申請の趣旨の変更はいずれも適法であると解するのが相当である。
 (中略)
 本件職務換えは同一課内の異動であって担当課長の権限において行なわれ、人事部の関係するところではなく、就業規則上の配転の扱いは受けないものであることが認められ、これに反する疎明もないが、面取り、バリ取り作業のごとき申請人が被申請人会社との労働契約に基づき会社に給付すべき労務の範囲に属さない職種への異動は、就業規則上の配転の扱いを受けるか否かに関わりなく会社が労働者に対し行使しうる労務指揮権の範囲を超えるものであって、右職務換えによって申請人が会社に対しこれに応じる労務を給付すべき義務を負担するものではないことは明らかである。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 申請人が被申請人と職種を特定して労働契約を締結したとは認められず、また申請人は入社後約四年間プレーナー操作を担当してきたとはいえ、申請人本人尋問において申請人自身自認するごとくプレーナー工として熟練の域に達するためには最低一〇年の経験は必要であると考えられるのであって、未だ申請人、被申請人間の労働契約が申請人の職種をプレーナー操作に限定する内容を有するに至ったとは解することができず、さらに、《証拠略》によれば、申請人同様工業高校出身の従業員で作業部門から技術部門へ配転された例は少なくないことが認められ、これに反する疎明はなく、加えて、第二技術部において設計の仕事を担当することが面取り、バリ取り作業を担当する場合のごとき不利益を申請人に与えるものとも解されない。したがって、本件第二技術部への配転は、合理的理由がある限り、一応申請人、被申請人間の労働契約の範囲内において被申請人がこれを命じうるところと解される。
 (中略)
 本件配転当時第二技術部が人員を必要としていたと認めるに足る疎明はなく、また本件配転後の申請人の担当職務の内容、申請人に対する指導方法からは会社の申請人を設計の分野で生かそうとの意図を窺うことはまったくできず申請人を未だに所属すべき課も定めず部付のままで留めていることも不可解というほかはない。特に、申請人の担当職務がたとえ教育とか適性の観察とかいう名目があるにせよ過去の製品の型設計であるということは、申請人の勤労意欲を著しく阻害するものであることはいうまでもない。本件職務換え及び本件不就労命令を経て本件配転に至る経過、その後の担当職務や会社の申請人に対する態度等を総合すれば、本件配転は申請人を他の従業員との接触の機会のない単独作業でかつ勤労意欲を阻害させられざるをえない業務に追いやることを企図したものであると推認せざるをえない。
 (4) 以上のとおり、申請人の製造課における勤労態度等については残業非協力以外に特に責められるべき点はなく、第二技術部に配転させるにつき業務上の必要性もなく、かえって本件配転は右のとおり申請人を孤立させることを企図したものであることが窺われるのであって到底合理的理由があるとはいえず、権利の濫用として無効というべきである。