全 情 報

ID番号 03506
事件名 仮処分異議事件
いわゆる事件名 吉田鉄工所事件
争点
事案概要  一時金協定に基づく考課査定部分について使用者が査定しないときは、その平均額ではなくすべての従業員に一応保障されている最低額について請求できるとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働契約と労働協約
裁判年月日 1974年3月6日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (保モ) 305 
裁判結果 認容(確定)
出典 時報745号97頁
審級関係
評釈論文 安屋和人・労働判例209号20頁/砂山克彦・季刊労働法95号78頁/山口浩一郎・昭49重判解説190頁
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働契約と労働協約〕
 三、ところで、申請人は前記(1)、(2)の協定中考課査定分については会社が不当に査定をしない場合はその平均額を請求しうる旨主張するのに対し、被申請人は右考課査定分は会社の従業員に対する個別的な査定によってはじめて具体化するものであるから会社が右査定をなさない以上、右考課査定分については選定者らに具体的な賃金請求権は発生しない旨主張して抗争するのでこの点につき判断する。《証拠略》によれば、右各協定中の考課査定分については、会社が(1)生産貢献度一五点、(2)作業専念度一〇点、(3)精勤度五点、(4)人物品位一〇点、(5)協調度一〇点とする五項目の査定項目により、五〇点満点として各従業員の査定配分額を決定するもので、会社は協定成立と同時に各従業員の査定をなしてその査定配分額を確定し、協定に定める他の自動的機械的に算出された部分に加算した額をその支給日に支給することになっていることが認められる。
 右によると、右考課査定分は会社の選定者らに対する個別的な査定によってはじめて具体化するものであるから、右査定がない場合、選定者らが直ちにその平均額を請求しうるとするのは根拠に乏しいものといわなければならない。しかしながら、右各協定が裁量部分である考課査定分を含めて選定者らにその効力を及ぼすものであり、かつ会社は協定に基づき査定をなす権限を取得すると同時に遅くとも協定所定の支給日までには右権限を行使して選定者らに対する配分額を確定する義務があるとすべきであるから、会社が右査定をしない場合には、すべての従業員に一応保障されているとみられる範囲で選定者らはこれを会社に請求することができるとするのが相当である。
 《証拠略》によれば、選定者らは、分会結成以前においては会社の各年度における一時金および賃上げの考課査定分について、いずれもその勤務能力、勤務成績により、平均額を支給されてきたこと、ところが、分会結成直後から会社と分会は、会社の分会を誹謗、中傷する文書、分会脱退工作、掲示板の提供、組合員に対する時間外労働拒否その他の不利益取り扱い等をめぐって激しく対立抗争し、係争をつづけているものであること、そして、分会結成後の昭和四四年度年末一時金においては、分会の組合員に対する査定配分額の最高が金三万四、六〇八円、最低が金四、三二八円とほとんどが平均額の金六万七、五〇〇円のほぼ四分の一、また同年度の年末定期昇給においても分会の組合員のほとんどが金二五〇円と査定平均額の金一、〇〇〇円の四分の一と著しく低額であったこと、昭和四五年度夏期一時金および春期賃上げにおいて、分会の組合員一七名を除く会社の吉田労組の組合員および非組合員の従業員に対する査定の結果は五〇点満点中その最低が一五点であったことがそれぞれ疎明される。
 右によれば、選定者らは、右一時金および賃上げの考課査定分について、会社が分会を嫌悪していることを査定の対象としない限り、少くとも五〇点満点中一五点の査定を受けることができると推定できるから、右一五点で計算される査定配分額は会社のすべての従業員に保障されているものと考えられる。
 なお、申請人は選定者らは会社に対し査定平均額と右査定配分額との差額を債務不履行もしくは不法行為を理由として損害賠償請求をする旨主張するが、仮に選定者らが会社に対し右損害賠償請求権があるとしても、その損害額が当然右差額相当分であることについては疎明が充分でないから、右主張は理由がない。