全 情 報

ID番号 03511
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 大成建設、新興工業事件
争点
事案概要  下請会社の社員が元請会社に技術研修員として出向している場合には、両会社との間に労働契約が成立しており、下請会社と元請会社の双方に安全保証義務が存在するが、本件では右義務違反はなかったとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
配転・出向・転籍・派遣 / 出向中の労働関係
裁判年月日 1974年3月25日
裁判所名 福島地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (ワ) 339 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報744号105頁
審級関係
評釈論文 林廸廣・判例評論191号37頁
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-出向中の労働関係〕
 二(一) 以上の事実によると、Aは、被告Y1会社に派遣後も、被告Y2会社の従業員としての身分を維持し、同被告から賃金を支給されながら、被告Y1会社において、その従業員の指揮命令に従って同被告の労務に服していたいわゆる出向社員であり、出向元である被告Y2会社および出向先である被告Y1会社とAとの間には、いわゆる使用従属の労働関係を発生せしめる契約という意味での労働契約が二重に成立していたものと認められる。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 ところで、労働契約上の使用者が労働者に対して負う義務は、労働者の労務の提供に対する対価の支払(本件において、右対価の支払義務は、前叙のように出向元たる使用者が負担することになっている。)に止まらず、労務の提供に際し労働者の身体・生命に生ずる危険から労働者を保護すべき義務も含まれ、そのために必要な職場環境の安全を図らなくてはならず、この義務を安全保証義務と称することができる。そして、本件のような移籍を伴わない出向労働者に対する安全保証義務は、まず、労働に関する指揮命令権の現実の帰属者たる出向先の使用者においてこれを負担すべきものであるが、身分上の雇傭主たる出向元の使用者も、当然にこれを免れるものではなく、当該労働者の経験・技能等の素質に応じ出向先との出向契約を介して労働環境の安全に配慮すべき義務を負うと解するのが相当である。
 (中略)
 (三) ところで前記採用の各証拠を総合すると、以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。
 本件九号駄目穴は、南側を除く三方が金網(養生網と称されているもの。但し、地下五階部分は板)で覆われ、南側が開口部となっており、その地下二階部分においては、床面から二〇ないし三〇センチメートルおよび九〇センチメートルの各位置に鉄パイプの手すりが設けられ、地下四階部分には、物体の落下または飛来による危険を防止するため駄目穴を水平に塞ぐことのできる開閉式防網があった。右南側開口部付近には、各階毎に見やすい位置に「立入禁止」の標示があり、本件駄目穴による資材の揚卸作業は、玉かけの技能をもつ作業員が、命綱で体を支え、ウィンチを用いて行い、右開口部で積降ろしすることになっていた。本件工事現場には、同種の駄目穴が合計一二か所にあったほか、人の昇降用階段が五か所にあった。
 また、本件事故当時、現場の安全管理者は、被告Y1会社の従業員・Bであり、同所における従業員に対する安全教育は、新しく現場に配属された者について、まず現場の状況をのみこませ、危険箇所の所在および安全施設・安全計画を具体的に教え、当初三日ないし四日間は一人歩きさせず、現場に慣れた者と行動を共にさせるほか、毎日行なう作業打合せの際、その都度予想される作業上の危険と一般的危険につき注意を与え、駄目穴については、特に資材揚卸作業に従事する者以外これに近づかないように注意していた。Aも以上のような安全教育を受けていた。
 (四) 右認定の事実によると、被告Y1会社は、本件駄目穴につき墜落防止に必要な安全施設を施し、かつ、Aに対する安全教育も施したというべきであって、同人に対する労働契約上の安全保証義務の不履行は存しないというべきである。