ID番号 | : | 03516 |
事件名 | : | 仮処分異議申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 平安自動車振興事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 企業を閉鎖し、敷地も売却し、数年間事業を再開しないままで完全に事業を廃止した場合には、従業員には賃金請求権はないとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法24条 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 営業の廃止と賃金請求権 |
裁判年月日 | : | 1974年4月25日 |
裁判所名 | : | 京都地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和48年 (モ) 647 |
裁判結果 | : | 取消・却下(控訴) |
出典 | : | 時報757号119頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-賃金請求権の発生-営業の廃止と賃金請求権〕 5 《証拠略》によれば、被申請人は、昭和四四年一一月四日、伏見教習所の敷地及び建物、電話等一切を、A株式会社に二億三五〇〇万円で売却し、敷地については、昭和四五年一二月二八日、所有権移転登記がなされている事実が認められる。 以上の各事実に、弁論の全趣旨によって認められるB教習所の事業が昭和四四年六月五日以降現在に至るまで、約四年八か月間停止され、被申請人会社による営業が行なわれていないこと及び企業再開を企てている事実が全く認められないことを総合すると、被申請人は、昭和四四年六月五日限りB教習所を真実廃止することを決定したもので、企業の継続ないし再開の意思は毛頭なく、少なくとも、同教習所の敷地及び建物等の一切を売却した昭和四四年一一月四日の時点において、同教習所の従業員を全く必要としない状態になったと認めるのが相当である。 そうだとすれば、右昭和四四年一一月四日の時点において、被申請人が申請人らを従業員として取扱うことは、主観的にも、客観的にも不可能であって(企業廃止の状態にある。)、もはや被申請人の任意履行を期待しえないことが明らかであり、他に申請人らが申請の利益を有することについて特段の事情が認められない以上、従業員としての仮の地位を定める仮処分は、申請の利益を欠く不適法なものといわなければならない。 三 次に賃金仮払の申請について判断する。 1 およそ、労務者は、通常の場合、労務の提供を終った後でなければ賃金を請求できないのであるが、使用者(債権者)の責に帰すべき事由によって労務の提供ができなかったときは、民法五三六条二項により、労務の提供を終らなくても賃金を請求することができる。そして、右使用者の責に帰すべき事由とは、就労を拒否することが、法律上非難される場合をいうと解すべきである。 本件についてこれをみるに、B教習所について、昭和四四年一一月四日の時点で企業が廃止された事実は既に認定したところであり、被申請人が申請人らの組合活動を嫌って企業を廃止したものであるとしても、真に企業を廃止する意思である場合には、憲法二二条(職業選択の自由)に基づいて企業開始の自由、企業廃止の自由が認められており、かつ企業廃止の自由は廃止の目的や動機によって影響をうけるものではないと考えられ、右企業の廃止は、道義上問題はあるとしても、不当労働行為であるなどの理由で、許されないというわけのものではなく、右廃止に伴い、その従業員を解雇することもまた適法になしうると考えるべきである。そこで、右企業の廃止に伴い、解雇の意思表示をすることなく、就労を拒否することが、法律上非難される場合に該当するか否かについて考えてみるに、企業の廃止とは、労働と物的生産手段の結合を解くことを意味し、右企業廃止がなされれば、即就労を受けいれることが不可能な状態を生ずるのであるから、右企業の廃止が適法になしうるということは、就労を拒否することもまた法律上は許容されるものであるというべきであり、したがって、使用者の責に帰すべき事由により就労不能になったとはいえない。 そうだとすれば、申請人らは企業が廃止された昭和四四年一一月四日の翌日以降の賃金請求権を有しないといわなければならない。 |