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ID番号 03518
事件名 譴責処分無効確認請求控訴事件
いわゆる事件名 富士重工業事件
争点
事案概要  同僚が企業内で行った原水爆反対署名依頼等に関する使用者の質問に協力しなかったことを理由とする遣責処分が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 信義則上の義務・忠実義務
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 政治活動
裁判年月日 1974年4月26日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ネ) 3075 
裁判結果 (上告)
出典 労働民例集25巻1・2合併号183頁/時報743号103頁/東高民時報25巻4号72頁/タイムズ311号105頁
審級関係 上告審/00248/最高三小/昭52.12.13/昭和49年(オ)687号
評釈論文 阿久沢亀夫・法学研究〔慶応大学〕47巻8号73頁/阿久沢亀夫・労働法律旬報860号24頁/西村健一郎・労働判例205号14頁
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-信義則上の義務・忠実義務〕
 ところで、労働者が使用者に対し全人格的な行動の自由まで提供し、無定量の忠実義務を負うものではなく、特定のいわゆる管理職的職務にあたるものでないかぎり、企業内の秩序維持については格別の職責を有するものではない。しかし、通常の労働者であつても、その担当する職務遂行に関連して直接見聞した企業秩序違反の事項について、使用者側による調査にある程度の協力をなすべき義務のあることも自明の理であるといわねばならない。ただ、その見聞の機会がどの程度に担当職務と関連するか、また見聞した事項が果たして企業秩序に違反するか、さらにその程度、範囲、右調査の当否、それに対しどの程度の協力をするかは、秩序違反と疑われた事項、調査の方法、当該各労働者の担当職務の内容、企業内での当時の一般秩序の状況使用者と労働者または労働組合との間の信頼関係など諸般にわたる複雑な関連において具体的個別的に決せられるべきであり、さらにその協力義務違反を理由とする処分の内容、程度とも微妙にかかわるところである。
〔懲戒・懲戒解雇-処分無効確認の訴え等〕
 次に被控訴人が本件処分を不当として、控訴人主張のとおり苦情処理機関の裁定を受けたことは当事者間に争いがなく原審および当審証人A、原審証人B、C、当審証人Dの各証言ならびに当審証人Aの証言によつて真正に成立したと認める乙第四一号証を総合すると、右苦情処理に際し審査裁定にあたつた第一審の本社苦情処理委員会の控訴会社を代表する委員は、同会社が指定したEF両人事部副部長、B同部人事課長、C同部研修課長およびA同部人事課員の五名であり、第二審たる中央苦情処理委員会の控訴会社を代表する委員は、同会社が指定したG人事部長および右五名であり、また第一審たる本社苦情処理委員会で組合を代表する委員は、H本社支部執行委員長、I同副執行委員長、J同書記長、K、L両執行委員の五名であり、前記第二審たる中央苦情処理委員会で組合を代表する委員は、M本部副中央執行委員長、N同書記長、O、P、Q、R各執行委員の六名であつたこと、苦情処理委員会の裁定は、事実上委員全員の意見が一致しないと結論を出さないのが従前より一貫した慣行であること(したがつて、前記第一、第二審の苦情処理委員会が被控訴人の本件苦情申立をそれぞれ棄却する旨の裁定するについても、労使双方の委員全員の意見が一致してなされたものと推認する)が認められ、これに反する証拠はない。そうだとすれば前記各裁定にあたつて、「本件企業内の労使関係の各代表者的立場にあつた前記各委員会の全員、とりわけ労働組合の代表者的立場にある全委員が右の各裁定について必要な前示本件譴責処分に関する諸事情を審査考慮して、被控訴人には就業規則にもとづく前示協力義務があり、しかもこれに違反するものがあつたと認定したものというべきであり、その結論にいたつた前示微妙な諸事情の判断は当裁判所もこれを相当なものとして尊重すべきであり、それによれば本件処分は妥当なものであつた」というほかはない。
 (中略)
 してみれば、本件譴責処分はこれを違法なものとして無効とすべきではなく、同処分の無効を前提とする被控訴人の本訴請求は失当たるを免れない。