ID番号 | : | 03519 |
事件名 | : | 従業員地位保全請求事件/金員支払仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 松下電器産業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 首相訪米阻止闘争で公務執行妨害罪等により実刑判決を受けたことを理由とする懲戒解雇が有効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の根拠 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 政治活動 |
裁判年月日 | : | 1974年4月30日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和48年 (ヨ) 2405 |
裁判結果 | : | 却下(確定) |
出典 | : | 時報758号113頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の根拠〕 三、ところで、企業が従業員に対し懲戒権を有することの根拠如何については諸説の存するところであるが、少くとも就業規則に懲戒規定を有する場合にあっては、これを根拠として企業の懲戒権を認容しうべきものと解せられるところ、それは企業秩序の維持という点からその合理性を根拠付けうるものであるから、企業秩序と無関係な従業員の私的行為に対してまで企業の支配力は及びえないところであり、就業規則によっても、右のような私的行為に対してまで無制限に懲戒の対象となすことは許されないものといわなければならない。 そして、従業員の企業外における私的行為は、一般的にみて企業と無関係のものということができるであろう。 しかしながら、従業員の企業外における私的行為であっても当該従業員の企業における地位、当該私的行為の内容如何によっては、企業に影響を及ぼすことのあることも否定できないから、それが企業に悪影響を及ぼす場合をあらかじめ就業規則に規定し、これを懲戒事由とすることは許されると解せられる。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-政治活動〕 ところで、前記のとおり申請人らは所謂佐藤首相訪米阻止闘争に参加し、警察機動隊と衝突し、兇器準備集合、公務執行妨害罪の現行犯として逮捕勾留され、東京地方裁判所において申請人X1が懲役二年、同X2、同X3がいずれも懲役一年三月の各実刑判決を受けたものであるが、《証拠略》によれば、申請人らが有罪判決を受けた刑事事件の罪となる事実は、昭和四四年一一月一六日、京浜急行蒲田駅附近においていずれも警備に従事する警察官の身体等に対し多数の労働者らと共同して危害を加える目的をもって、右の者らとともに兇器として多数の火炎びん、鉄パイプ等を携え準備して集合し、多数の労働者らと共謀のうえ、労働者らの違法行為の制止、検挙等の任務に従事していた警視庁警察官らに対し火炎びん、石塊を投げつけるなどの暴行を加えその職務の執行を妨害したものであり、右犯行等によってなされた所謂過激派の行為は反社会的行為と評価され、一般世論の極めて厳しい反発を受けたことの各事実が疎明される。 右事実によれば、申請人らが行った右闘争行為はその政治的意図はともかくとして、極めて違法性の強い犯罪行為とされ、社会的に厳しい責任を問われたものということができる。 そこで、申請人らの右違法行為によって受けた有罪判決が被申請人会社に如何なる影響を及ぼしたかにつき検討するに、被申請人会社が右有罪判決の結果被申請人会社の社会的信用を失墜したとかこれを棄損したような事実についてはこれを認めうべき疎明がなく、また申請人らがいずれも前記の如く規模の大きな被申請人会社の末端労働者であることを考えると、右有罪判決によって、被申請人会社の社会的信用が失墜ないし棄損される虞も容易には認め難いところである。 しかしながら、《証拠略》によれば、申請人らの前記犯行に対する他の従業員の批判、反発の声が強く、申請人らがこれらの従業員と協調して職務に従事することには相当の支障のあることが窺えるところ、前記有罪判決により申請人らの職場内における人間関係に一層の悪影響を及ぼすことが推認される。 そして前掲証拠によれば、被申請人会社は申請人らが前記闘争に参加することにより不祥事の生ずることを防止すべく、上司において年休の時季変更権を行使したり或は上京しないよう説得したりしたものの、結局申請人らは敢えて右闘争に参加し、前記のとおり逮捕、勾留され、半年ないし一年近くの間就業不能の状況となり、被申請人会社の作業計画に影響を及ぼし、労務の提供につき他の従業員に迷惑を及ぼしたことが認められること、その有罪判決が前記のとおりの相当厳しい実刑判決であることの各事情に照らすと、申請人らは右有罪判決を受けたことにより被申請人会社の職場秩序に相当の悪影響を及ぼしたものというべきであり、申請人らの職場復帰を認めることはさらに職場秩序の悪影響を増巾せしめるものと認められるから、被申請人会社が前記有罪判決を理由としてなした申請人らに対する本件懲戒解雇は有効というべきであって、懲戒権の濫用とか懲戒処分の裁量を逸脱したものとはいまだ認めることはできない。 |