ID番号 | : | 03520 |
事件名 | : | 賃金支払仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 東京印刷紙器事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 私傷病による休職につき、その期間満了にさいしての予告解雇が正当であり、解雇権の濫用にはあたらないとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法20条 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1974年5月27日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和48年 (ヨ) 2321 |
裁判結果 | : | 却下(控訴) |
出典 | : | 時報761号117頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕 1 申請人は解雇権の濫用を主張する。 (一) 申請人の病状が一番安定した状態にきていて過激な重労働以外就労可能であり、本社総務部又は柏工場生産管理課の業務に就くことができるにもかかわらず、被申請人は、本社営業部への配転予定を持ち出し、申請人が営業部勤務に耐ええないことを理由にしてその就労を拒否し、ついに本件解雇に及んだのであるが、「外力の累積により再発」を避けることのできない唯一の職場である営業部に申請人を配転することはその健康維持上許されないから、本件解雇は不当であると、申請人は主張する。 たしかに、申請人の症状について、A主治医の診断が二月一五日付の「過激な労働は不適当である。」及び意見書中の「二月一六日軽作業より復職可能」から四月一八日付の「過激な重労働以外就労可能である。」へと推移したことはまえにみたとおりである。しかしながら、右にいう「過激な重労働以外の就労」として、本社総務部又は柏工場生産管理課の勤務がこれにあたるとしても、いったい本社営業部勤務が右の「過激な重労働」なのかどうか。また総務部又は生産管理課の業務が右にいう「軽作業」にあたるのかどうか。これらについて断定をくだすだけの資料はみあたらないし、前記二、3の認定に資した疎明資料に本件弁論の全趣旨をあわせると、A主治医といえどもよく断定しないところであることがうかがわれる。さらに、営業部をもって「外力の累積により再発」を避けることのできない唯一の職場とする理由も明らかでない。いうところの外力の累積は、申請人の両膝遊離性骨端軟骨炎の病期及び症状にてらして、殆んど不可避とみられる再発の原因をなすものであることが前掲乙第二二号証(主治医の意見書)の記載により明らかであり、申請人の両膝部位における外力の累積自体は総務部又は生産管理課の勤務においても免れうるものではない。そして、前記認定によれば、申請人が営業部の勤務に耐えられないことを理由にその復職が拒否されたのは三月一日の通告であるが、六月八日の解雇予告では、申請人の疾病が被申請人の正常な業務に就きうるまでに治癒していないことを解雇の理由にしており、もはや営業部勤務に耐えうるものかどうかは問題にしていないのである。申請人の右主張は採用しがたい。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕 しかしながら、前記認定事実(二、3)に《証拠略》を総合すると、申請人は入社してわずか二年間柏工場事務課に勤務しただけであり、ようやく被申請人の業務につき概観を把握し、営業関係担当要員の基礎知識を修得して、被申請人の企業経営上の中枢部門たる営業部においていよいよ大学卒従業員の雇傭条件に適応する勤務に就くことが予定されていた矢先、両膝遊離性骨端軟骨炎の発症によりその必須部門ともいうべき営業部勤務を経歴することが将来においても全く望めなくなって、被申請人企業の人的機構及び管理の経済性に背馳する事態をもたらしたのであるが、右事態の困惑もさることながら、かりに右の経済性に背いて営業部以外に軽作業のポストを予後の申請人のために用意してみたところで、早晩申請人の疾病の再発は殆んど必至であり、その定年までの二三年間において発症、治療、軽快が循環するに伴いそのつど病欠休業をくりかえし、しかも日常の勤務においても絶えず申請人の両膝を庇うように著意を払わなければならないなど申請人の喫緊の養生事項に対応してその健康管理上の措置及び責任がさらに加重されて被申請人の業務の正常の運営が阻害される虞れもあることから、被申請人は本件解雇の予告をするにいたったことを認めることができる。 右認定の事情のもとにおいて、被申請人と申請人間の雇傭関係を解消するか(なお、本件は、まえにみたとおり、業務外の傷病によるものであるが、労働基準法一九条は業務上の傷病による解雇を当然に前提した規定である。)あるいは軽作業のポストを用意してその雇傭関係を継続するかについて、被申請人は自己の計算においていずれかを選択しうる自由があるものと解するのを相当とするから、被申請人が後者を捨てて前者に趨ったからといって、到底信義則に悖るものとはいいがたい。申請人の右主張もまた首肯しがたいものというべきである。 そうすると、解雇権の濫用については、ほかにこれを肯認するに足りる疎明資料も存しないから、申請人の主張は理由がなく、排斥を免れない。 |