全 情 報

ID番号 03527
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 高木電気事件
争点
事案概要  下請会社への出向命令につき、使用者が出向を命ずるためには当該労働者の承諾もしくは労働契約等法律上正当な根拠を要するとされ、本件については右の要件が充たされていないので無効とされた事例。
 下請会社への出向は実質上就業場所の変更にとどまり配転であるとの会社の主張につき、出向命令であるとされた事例。
 配転命令につき、右出向後の労務を前提としたものであり、出向命令が無効であるから配転命令も無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠
裁判年月日 1974年7月4日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和48年 (ヨ) 2837 
裁判結果 認容
出典 労働民例集25巻4・5合併号317頁
審級関係
評釈論文 中嶋士元也・ジュリスト604号131頁
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の根拠〕
 一般に使用者は労働契約に基づき労働者をその指揮命令下に置き、労働者の労働力を企業目的のために利用処分する権能を取得するものであるが、この権限はあくまで労働契約に定められた範囲にとどまるべきものであるところ、労働契約は、その目的たる給付の性質上、労働者と使用者との密接な人的関係を要素とするものであり、その意味では労働契約における労務給付は一身専属的性質を有するものとみるのが相当である。民法六二五条一項が使用者は労働者の承諾なしにはその権利を第三者に譲渡しえない旨規定しているのも労働契約における以上のような一身専属的性質を考慮しているからにほかならない。しかるに、出向と総称される勤務形態が労働契約に基づく通常の労務給付の形態と著しく異なり問題を内包するゆえんは、使用者が労働者に対し、その指揮命令下において、当該使用者のためにのみ労務の給付を求めうるという関係を超えて、第三者の指揮命令下において労務に服させることが労働契約における労働力の利用処分権の範囲を逸脱するものではないかという点にあると思われる。すなわち、いわゆる「出向」の法的意義は、労働者の労務提供の実態が労働契約上の使用者以外の第三者の指揮命令下で当該第三者の業務に就労するに至る場合がこれに該当し、そして、この意味での出向は、実質的には出向先会社との間の新たな雇用関係に入つて、その指揮命令に服することになるので、本来重要な労働条件の変更をもたらすものであり、当初の労働契約の予想する範囲を明らかに超えるものであるから、民法六二五条一項の規定に照らしても、使用者が出向を命ずるためには当該労働者の承諾もしくは労働契約等法律上正当な根拠を要するものといわなければならない。
 (中略)
 (四) そして、前記説示のとおり、被申請人会社は申請人らの同意または労働協約の規定等の法律上の根拠なくして一方的に申請人らをA会社に出向させることはできないものである。
 疎明によると、申請人らは昭和四八年九月一三日本件出向命令を受けた際一応辞令の交付を受けたが、右出向命令に納得したわけではなく、即日前記B労働組合の執行委員会の検討に委ねたうえ、執行委員会の決議に基づき、出向に伴う労働条件、選考経過、および組合活動の保障等が不明確であるので本件出向命令を承諾できないとの態度を決定し、翌一四日会社側に右辞令を返却したこと、組合は同月一四、一七日の二回にわたり会社に対し発令の延期を求めたうえ、本件出向に関する団体交渉を申入れたが、会社がこれを拒否したため、申請人らは右出向命令の効力を裁判で争うことを決意し、同月一九日当庁に本件仮処分を申請し、以来右出向命令に応じる義務はないとの見解を維持し、出向先での業務にも服していないことが認められ、乙第一一号証の一(Cの審尋調書)、同第一二号証の二(Dの審尋調書)中申請人らが一旦本件出向命令に同意した旨の部分は措信できず、他に右同意を認めるに足る証拠はないことからすると、申請人らが本件出向命令に同意した事実を認めることはできない。
 その他本件出向命令を法律上根拠づける労働協約就業規則等が存する旨の主張ならびに疎明はない。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 本件配転命令は前記のとおり申請人らを会社の技術部電子機器課あるいは技術サービス課から同工事課勤務を命ずるものであるが、疎明によると、本件配転命令は、申請人らが本件出向命令に従つてA会社において就労する義務があり、出向解除後工事課でボタン電話の直営工事に従事することを業務上の都合とし、右出向命令の有効を前提としていることが認められるところ、前認定のとおり本件出向命令が無効である以上、会社のなした本件配転命令は業務上の必要性を全く欠くものといわざるをえないから、結局右命令は人事権の濫用に該当し、法的効果を生じないものというべきである。