全 情 報

ID番号 03529
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 中国電力事件
争点
事案概要  高圧線上の作業中に電力会社作業員が感電死した場合につき、使用者に安全保護義務違反があったとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1974年7月19日
裁判所名 広島地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (ワ) 595 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 タイムズ322号268頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 雇傭契約に基き、労働者は使用者の指定した労務給付場所に配置され、使用者の提供した設備、器具等を用いて、労務給付を行うものであるから、使用者には右の諸施設から生ずる危険が労働者に及ばないよう労働者の安全を保護する義務があるというべきところ、本件の場合、被告はAに対し、具体的にいかなる義務を負うかの点について考えるに、前記当事者間に争いのない事実及び前記認定によれば、Aは被告会社に雇傭され、可部営業所配電課に配置され、事故当日は事故現場において、本件作業を活線作業でなしていたものであるが、本件作業はAがなしたように下二段腕金に足をかけて作業するのが一般であり、特に高圧三線のうち南側外線の作業においては低圧単三線の間に足を入れざるを得ず、しかも別紙第二図面のとおり下二段腕金と下三段腕金との間隔は三七糎であり、下三段腕金と最下段の高圧線の腕金との間隔は六五糎であるから、特に作業困難な箇所とは言えないにしても、かなり困難な箇所の作業というほかなく、特にその作業姿勢からすると高圧線と低圧線に身体が接触するおそれは大きく感電の危害を生ずるおそれがある(作業中の安定した姿勢のみでなく、姿勢のくずれた状態や身体をのばした状態をも考慮して接触のおそれは判断すべきである。)から、停電作業にしないとしても身体には十分の保護具すなわちゴム袖、電気肩あて、ゴムチョッキ、電気用ゴム長靴等を着用し、かつ低圧線、腕金には十分な防具を装着してなすべきものである。従つて使用者たる被告としては、十分な保護具、防具を備え付け、これを着用装着させるべき義務あることは勿論、被告会社の本件のような活線作業業務は極めて危険な義務であるから、その作業を安全になすよう十分な施策を徹底してなすべき義務があると解される。
 しかるに〈証拠〉によれば被告会社可部営業所にはゴムチョッキ、ゴム肩あては備付られておらず、ゴム袖も一つあるにとどまり、従つて本件作業に際しては前記認定のとおりヘルメット、ゴム手袋が用いられたにすぎず、又単三線及び電灯動力線の低圧線や腕金の防護が全くなされず、かつ右防護を怠つたのは作業責任者の指示がなされず、本件の作業員もそれを軽視したためであり、〈証拠〉によれば当時被告会社の作業員は低圧線防護は省略し勝ちであつたことが認められるから被告の安全教育もまた不十分であつたと解するほかなく、結局被告はAに対し前記保護義務を履行しなかつたものといわざるを得ない。しかして被告の右義務の不履行により本件事故は発生したものであるから、被告は原告らに対し、本件事故による損害を賠償する責任がある。