ID番号 | : | 03534 |
事件名 | : | 雇傭関係確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 五洋建設事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 採用内定者が会社の人員の都合等の理由をあげて内定撤回承諾書に署名押印をしたもののその押印が撤回の意思に基づくものではないとして雇用契約関係の確認の請求をした事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 採用内定 / 取消し 退職 / 退職願 / 退職願いの撤回 |
裁判年月日 | : | 1974年11月11日 |
裁判所名 | : | 広島地呉支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和48年 (ワ) 4 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | タイムズ322号272頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔退職-退職願-退職願いの撤回〕 原告は右面接時まで採用内定取消を全く予想しておらず、内堀弁護士の突然の話に手がふるえてお茶をこぼすほどに動揺し、採用内定取消は被告会社の動かし難い決定であると考え、早くその場から逃げ出したい気持が強く、言われるまゝに撤回届(乙第一二号証)に署名指印したものと認められる。原告がこの時まで採用内定取消を予期していなかつたことは一項(3)(5)の経過によつて明らかであり、〈証拠〉によれば、被告会社側の両名は原告が採用内定辞退に同意しないときのことは考えていなかつたと述べており、撤回届はすでに準備されていたのであるから、被告会社側が仮りに「会社の人員の都合で」という言葉を用いたとしても、その場の雰囲気などから原告が被告会社の動かし難い決定と受取つたのは当然であり、また、原告が激しい精神的動揺を受けたことも想像に難くない。 (三) 以上認定の事実と一項(7)のその後の経過からみると、原告が面接時に被告会社の採用内定取消を納得し、これに合意する趣旨で撤回届に署名指印したものとは認めることができず、被告会社の合意解約の主張は採用できない。 〔労働契約-採用内定-取消し〕 被告会社の採用内定取消は二項認定のとおり、何ら首肯させるに足りる理由がないのみならず、その方法においても一項認定のように被告会社が推せんを依頼したA工専の了解も求めず、原告、原告の父、A工専教諭の求めにかゝわらずその理由を明らかにしないなど、信義に欠けるものといわねばならない。新規学卒予定者の場合、俗に「青田刈」と称されるとおり、大中企業は早期に採用試験を実施して採用内定者を決めてしまい、その時期に遅れたときには補充的採用や小企業だけが残されるなど就職希望者にとつて不利な条件下におかれることは広く知られた事実であつて、〈証拠〉によれば、原告は五月に被告会社の採用内定があつたので他社を受験せずにいたところ、一〇月二八日に至つて取消の話があり、以来被告会社との接渉と併行して他への就職を考慮したときもあつたが、本社採用でなく支店採用で給料も安い受験先しかなかつたこと、原告は本訴で争うこととし、A工専卒業後は設計事務所でアルバイトをしていることが認められる。さらに被告会社の就労拒否によつて、建築技術の向上の機会を阻まれ、当然予想される昇給等の利益を得られない損害も無視できない。以上の点を考慮すると、被告会社の採用内定取消の意向とその後の措置によつて原告は不当な精神的損害を蒙つたものと認められるから、当裁判所は諸事情を考慮し、その慰謝料として金三〇万円の請求を相当と認めてこれを認容し、その余を理由がないものとして棄却することとする。 |