全 情 報

ID番号 03536
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 下村工務店事件
争点
事案概要  建築請負工事の現場において下請業者の過失によって元請業者の被用者が負傷した事故について元請業者の使用者責任が追及された事例。
参照法条 労働基準法2章
民法415条
民法715条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 委任・請負と労働契約
裁判年月日 1974年9月18日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ワ) 5473 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報772号79頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-委任・請負と労働契約〕
 右Aは元来A工業所の名称を用い、職人を雇入れ、独立企業として左官工事業を営んでいたのであり、本件事故当時被告の左官工事をほぼ専属的に行っていたが、他面右左官工事の収入については坪単価によることが殆んどであり、かつ、右Aは左官工事については被告の指揮監督を受けることなく、自らの責任において自己雇入れの職人を補助者として用いて右工事を完遂し、かつ仕入材料の選択、決済を行い、税務署に対しても独立の企業者として所得申告し、本件の左官工事等による収益については請負利益として計上していたものであり、そうすると、極く小規模の常傭形式により施行したものを除き、一般に左官事業に関し被告と右A間の契約関係は請負であり、かつ、この請負関係が右両者間の基本的な法律関係をなしているものといわねばならない。
 勿論、前判示のとおり、右Aは当時常傭としても被告に稼働していたことは明らかであるが、他面、右常傭は一年間のうち一か月程度にすぎず、全体に対し占むる率も極めて僅かであったと認むべきであるから、むしろ右常傭はその必要の都度臨時に雇入契約が成立して稼働するに至っていたものというべく、これをもって継続的な雇用契約が成立したと認めることは無理であり、それゆえ、右常傭の存在が前記請負契約関係を否定する資料をなすものとは考えられないところである。また、右Aが労災事故のあった自己雇入の職人に対して被告の労災保険の受給を受けさせていたことは、前判示のとおりであるが、それは、その当否は別として、右Aの企業が小規模零細な企業であったことから、労災保険等の諸掛については相互互助の精神から元請事業者たる被告において負担する約束(少なくとも黙示的合意)が成立していたものと認めるのが相当であり、この一事をもって右請負契約の存在を否定する根拠とは到底なしがたいところである。他に右請負契約関係を否定する根拠となる資料は全く存しないところである。