ID番号 | : | 03553 |
事件名 | : | 解雇無効確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 笹谷タクシー事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | タクシー会社の運転手が業務外で試用中の従業員に酒をすすめ、さらに車に乗って酒を飲みに出かけ事故をおこさせてしまった事件で懲戒解雇され、その効力を争った事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務外非行 |
裁判年月日 | : | 1974年12月25日 |
裁判所名 | : | 福島地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和47年 (ワ) 188 |
裁判結果 | : | 棄却(確定) |
出典 | : | 時報779号119頁 |
審級関係 | : | 上告審/01830/最高一小/昭53.11.30/昭和51年(オ)155号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務外非行〕 規則第四八条第一〇号は、単に「酒気をおびて自動車を運転したとき」と定めているが、右事由は、職務遂行に関係のある場合だけではなく、職場外の職務遂行に関係のない酒気おび運転であっても、それが企業秩序に影響するとか、企業の社会的評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められる場合には、これをも含む趣旨と解すべきである(最高裁判所昭和四九年二月二八日第一小法廷判決・民集第二八巻第一号六六頁参照。) (中略) 使用者が従業員に対して課する懲戒は、広く企業秩序を維持確保し、もって企業の円滑な運営を可能ならしめるための一種の制裁罰であるから(前掲最高裁判所判決参照)、使用者が就業規則に懲戒事由を規定するのは、右固有の懲戒権の行使を自律的に制約することにほかならない。また、就業規則に懲戒事由を規定すれば、恣意的な懲戒権の行使が妨げられ、従業員の地位を保障する機能を果すものである。したがって、右懲戒事由の規定については、それが使用者の自己抑制であることに鑑み、従業員の保護をも考慮して、合理的に解釈すべきものと考える。 ところで、本件において、規則中に第四八条に掲げる事由が限定列挙である旨・つまり右事由による場合のほか懲戒を受けることはない旨を明示した規定はない(ちなみに、譴責・減給・乗務停止・出勤停止については、その内容に関する規定があるのみで、それに応じた懲戒事由を明示した規定がなく、規則第四八条自体に誤植等の存することは、別紙のとおりである。本件就業規則の規定に不備があることを物語るものといえよう。)また、世上、就業規則においては、懲戒事由を列挙した末尾に「その他前各号に準ずる事由」のごとき概括的規定をおいているのが通例であるが(本規則において、何故に右のような概括的規定を欠くのか、その間の経緯は明らかでない。)、このような概括的規定は、従業員の保護を考慮し、違反の類型および程度において列挙事由と客観的に相応するものでなければならないものと考えられる。以上の点を考慮のうえ、タクシー営業という被告の企業の特殊性を斟酌するならば、懲戒解雇事由として規則第四八条第一〇号を準用することは、先に説示した合理的解釈の範囲を超えないものとして許されるところというべきである。 (中略) 原告の本件所為は、その態様において、長時間にわたりAと多量の飲酒をし、終始Aと行動を共にして、先輩でありながらその酒気おび運転に積極的に加担し、ひいては人身事故を誘発したものであり、事故後の措置もよろしきをえたものではない。とくに、原告は、タクシー営業に従事する運転手であったから、右所為が職場外でなされた職務遂行に関係のないものであったことを勘案しても、その情状は、決して軽いものではないというべく、右原告の所為が同僚に与えたであろうショックの程も、前記二(五)で認定した経緯から窺い知ることができ、無視することはできない。現に、Aは、任意退職してその責任をとっているのである。 以上の事情を考慮するならば、本件懲戒解雇は、前記三(四)で説示した裁量の範囲を超えるものではないというべきである。 |