ID番号 | : | 03556 |
事件名 | : | 地位保全仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 伊予商運事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 自らの加入する労働組合と会社間における作業と賃金を不満とする者が賃金増額を要求して作業拒否したことを理由とする解雇につき、解雇権の濫用にあたらず有効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法1条3項 民法623条 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反 |
裁判年月日 | : | 1973年2月1日 |
裁判所名 | : | 松山地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和43年 (ヨ) 102 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | タイムズ294号386頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 佐藤進・ジュリスト561号109頁 |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕 2、(一部労務提供拒否の意思表明)しかし、前記三【23】のないし【25】の認定事実のとおり、債権者らは、賃上げをしないかぎり今後臨時船の船内荷役とAの貨物自動車の積降し作業には従事しないという意思を会社支店に表明しており、他に解雇理由となつたものはないので、会社は、実質的には債権者らの右作業拒否の意思表明をもつてその解雇理由としたものと解せられる。そこで、会社の右理由による本件解雇が果して解雇権の濫用と評価されるべきものかどうかについて検討を加える。 さて、債権者らは、臨時船の船内荷役とAの貨物自動車の積降し作業を拒否する理由として、会社に対し賃上げを要求している。もちろん、労働者が自己の賃金を不足として会社に賃上げを要求するのは、労働者の要求として至極当然のことであり、法は一定の場合にはその権利を保障してさえいる。そして、ある場合には、賃上げを要求して労務提供拒否に至ることも、法は権利としてこれを保護している。しかし、反面、労働者は賃上げの要求をしさえすればいついかなるときでも労務提供を拒否することが合法となり、民事免責を受けるということにはならないし、また労務提供の拒否を表明することが解雇権の行使から解放されるということにもならないのは自明のことである。賃上げを要求して労務提供拒否の意思を表明する場合、その賃上げの要求が労働者の要求として真摯で、社会通念上これを肯認しうるかぎり、解雇権の行使からこれを保護すべきであるが、そうでなく賃上げの要求も実は口実で他に作業拒否の目的がある場合とか、仮に賃上げの要求であつても社会通念上一般に肯認しえないような場合には、もはや解雇権の行使から自由ではありえないものと解せられる。 (中略) そして、債権者らの作業拒否の意思を表明した臨時船とAの仕事の作業量は、全体の作業量からいうとそのわずかの部分を占めるにすぎないが、ことは労務提供拒否の意思表明という労働契約上の本質的債務の不履行を表明しているのであるから、これが些細なことであると一概に断じることはできない。債権者ら作業員の職務の性質上、単純な肉体労働の繰返しが多いのであるから、他人との仕事量や仕事の質の差異が目につきやすいことを考えると、債権者らの作業拒否が波及的に他の作業員に悪影響を及ぼし、ついには会社の指揮命令権の機能に障害をもたらす結果となり、ひいては会社の職場秩序を乱すおそれが生じることのあることは否定できないところである。 そうであるとすれば、会社が、債権者らの本件作業拒否の意思表明をもつて、「支店業務に協力の意思なきもの」であると判断して、本件通常解雇をなしたことは、前記認定の会社側の全港湾支部との交渉、債権者らの説得などの努力を考え合せると、社会通念上首肯されるというべきであり、これをもつて解雇権の濫用と評価することはできないものといわなければならない。 |