全 情 報

ID番号 03562
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 親和交通事件
争点
事案概要  タクシー会社の従業員の親睦団体が賃上げ要求等のため会社事務室内に無許可でビラを貼付した場合につき、その目的、内容等からみて懲戒解雇事由に該当しないとされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1973年3月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (ワ) 2375 
裁判結果 認容
出典 タイムズ298号296頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 懲戒規程第一四条第一三号は、懲戒解雇事由として、「会社内で許可なく掲示」をすることを挙げている。
 本件のような規模のビラ貼りを被申請人会社がこれまで慣行として認容し、あるいは明示または黙示に承認していたという事情は認められない。したがつて、本件ビラ貼りは、無許可で被申請人会社の施設を利用したという点で問責さるべき性質を帯有することを否定できない。
 しかし、一般に、ビラ貼りは、組合の情報宣伝活動の最も通常な方法の一つであり、ことに企業内組合が企業施設を利用してビラを貼ることは、組合活動にとつてほとんど欠くことのできない手段となつている。このことは、まだ組合が結成されず、組合の役割を不十分ながら果たす労働者の親睦団体があるにすぎない場合においても、同断である。資力を有しない労働者が、使用者に対抗する最大の武器は言論活動であつて、ビラ貼りは、言論活動の有力な手段である。すなわち、この場合においても、労働者の親睦団体が使用者に対する賃上げ等の要求を貫徹するためには、構成員の間の強固な結束を必要とするが、構成員の団結を維持、高揚する手段としては、ビラ貼り等による情報宣伝活動を行なうことが極めて効果的であると考えられるからである。
 右のような事情を考慮すると、労働者が労働条件の維持向上を志向してするビラ貼り行為の自由は、最大限に尊重されるべきであつて、これに対する制限禁止は、できるだけ抑制的でなければならないという原則が妥当する。すなわち、無許可のビラ貼り行為が懲戒事由に該当するかどうかを判断するには、懲戒制度の目的とする職場の秩序維持の面についてのみならず、組合ないし労働者の親睦団体がビラ貼りを必要とする事情の面についても、慎重かつ適正な考察がなされなければならないのであり、具体的には、ビラ貼りの目的、ビラの枚数、表現内容、それが貼られた場所およびビラ貼りによつて使用者が受けた支障の程度などを総合的に検討したうえ、使用者の施設管理権、職場の秩序維持と労働者の団結権に基づく組合活動等との調和を保持するように計られなければならない。
 (中略)
 してみれば、本件ビラ貼りは、その目的、態様、結果からみて、情状悪質なものとは認められず、その反価値性は、前記懲戒解雇条項の解釈の基準に照らし、懲戒解雇に値する程顕著な場合であるとは到底解されない。したがつて、これは前記就業規則および懲戒規程に定める懲戒解雇事由に該当しない。