全 情 報

ID番号 03570
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 日本冶金工業事件
争点
事案概要  成田空港反対闘争に参加し公務執行妨害罪で起訴され、就業規則により起訴休職処分に付された場合につき、会社の対外的信用や職場秩序に悪影響もなかったとして、右処分が無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 休職 / 起訴休職 / 休職制度の合理性
休職 / 起訴休職 / 休職制度の効力
裁判年月日 1973年5月18日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ヨ) 2292 
裁判結果 一部認容・却下
出典 労働民例集24巻3号197頁/時報710号41頁
審級関係
評釈論文 佐川一信・労働判例178号15頁/萩沢清彦・労働判例百選<第三版>〔別冊ジュリスト45号〕44頁
判決理由 〔休職-起訴休職-休職制度の合理性〕
 (一) 従業員(組合員)が刑罰法規に違反して起訴され刑の確定しないときは原則として休職を命ずる旨の就業規則第四六条第七号および労働協約第二八条第一項第七号の規定の内容は、当事者間に争いない。
 私企業に雇用されている従業員が刑事事件に関して起訴された場合には、有罪判決が確定するまでは刑事訴訟法上においては無罪の推定を受けるにしても、起訴された事件の有罪率が極めて高いわが国の刑事裁判の実状からすると、相当程度客観性のある犯罪の嫌疑を受けたものとして、それなりの社会的評価を受けることは免れない。そうすれば、従業員が起訴されたりあるいはその起訴された従業員がその後も引き続いて業務に従事するときは、公訴事実の内容、その罪名と罰条、当該従業員の企業内における地位およびその担当職務の内容等のいかんによつては、企業の対外的信用を失墜させたりあるいは職場秩序の維持に支障を生ぜしめるおそれがある。また、刑事被告人は、公判審理が開始されれば原則として公判期日に出頭する義務を負い、場合によつては勾留されることもあるから、起訴された従業員はこのことにより完全な就労ができなくなることがある。そのため、企業としては、当該従業員からの安定した労務提供を期待できなくなる場合も生じ得るから、労働力の適正な配置による業務の円滑な遂行を阻害されるおそれもないではない。就業規則第四六条第七号ならびに労働協約第二八条第一項第七号の起訴休職に関する規定は、以上のような理由から、起訴された組合員たる従業員を被申請人の従業員としての身分を保有させながら、一時的に職務に従事させないことにし、これにより被申請人の対外的信用を保持し、職場秩序の維持をはかるとともに業務の円滑な遂行を確保しようとして設けられたものと解される。
〔休職-起訴休職-休職制度の効力〕
 これによれば、就業規則第四六条第七号ならびに労働協約第二八条第一項第七号に基づく起訴休職処分は、一時的にせよ就労から排除され、その間の賃金の支払いを全く受けられなくなる点において、懲戒処分である出勤停止に等しいものとなる。ことに本件休職処分のように休職期間の定めがない場合は、その期間は前記就業規則および労働協約の規定によつて必要な期間ということになるが、この必要な期間が何であるかは、専ら被申請人の主観的判断に委ねられるおそれがあり、申請人らは刑事裁判確定まで休職を解かれないことは十分予想されるところである。しかも、この種の刑事裁判の長期化の傾向を卒直に肯定するときは、起訴休職処分の場合は、出勤停止最長期間である一か月内に休職が解かれることは絶無というべく、相当長期間休職状態が持続するものとみなければならない。そうすると、その効果において、起訴休職処分は、出勤停止以上に過酷な処分ともなり得る。休職処分は懲戒処分とは性質を異にするのであるから、使用者は、懲戒的な意図をもつて従業員を休職処分に付してはならないのである。したがつて、無制限に過酷な休職処分が許されないように、起訴休職処分の規定は厳格に制限的に解釈されなければならない。右各規定は従業員が起訴されたことを要件の一つとしているが、起訴という事実だけが要件の全部を充足するものと解してはならないのである。すなわち、組合員たる従業員が起訴されたとしても、そのことのみをもつて当該組合員たる従業員を就業規則第四六条第七号ならびに労働協約第二八条第一項第七号により起訴休職処分に付することは許されない。前述したような起訴休職制度存置の目的からして、当該組合員たる従業員が起訴されたことにより、あるいは当該組合員たる従業員が起訴後も引き続き就業するときは、被申請人の対外的信用を失墜し、または職場秩序の維持に悪影響を生ずるおそれがあるとか、業務の円滑な遂行がかなりの程度阻害されるおそれがある場合に限つて、休職処分に付し得るものと解すべきである。
(中略)
 そうすると、申請人らが起訴されたりあるいは申請人らが起訴後も引き続き業務に従事するとしても、これにより被申請人の対外的信用を失墜し、または職場秩序の維持に悪影響を生ずるとは認められないし、その業務の円滑な遂行が著しく阻害されるとも認められないから、申請人らに対する本件休職処分は就業規則第四六条第七号ならびに労働協約第二八条第一項第七号の適用を誤つたもので無効であるといわなければならない。