全 情 報

ID番号 03590
事件名 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 日星興業事件
争点
事案概要  土建会社のブルドーザー運転手が元請会社に対して「この工事は会社ではできない」と公言して、会社の信用を毀損したことに対する懲戒解雇が有効とされた事例。
 右懲戒解雇の事実を同業者に通知し、新聞広告に出したことが一種の報復措置として違法とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働契約と労働協約
解雇(民事) / 解雇事由 / 名誉・信用失墜
裁判年月日 1973年10月15日
裁判所名 大津地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ワ) 125 
裁判結果 一部認容・棄却(控訴)
出典 時報736号81頁
審級関係 控訴審/01958/大阪高/昭50. 3.27/昭和48年(ネ)1861号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働契約と労働協約〕
〔解雇-解雇事由-名誉・信用失墜〕
 (二) 右認定の事実によると、被告会社は本件工事の工期内完成に社運を賭していたものであり、A会社ひいてはB会社から、その点の危惧を招くことは、本件工事を引続いて下請けさせて貰えるかどうかはもとより、その後の被告会社の信用上極めて不利な結果を生ずるものであったこと、しかるに原告はその年令からしても被告会社の現場における中堅労務者とみられるに拘らず、その者が、右工事着工の初期の段階から、被告会社にはこの仕事は無理である旨公言しているのであるが、その相手がA会社、ひいてB会社でもあることは、右被告会社の信用を著しく損うものであって、被告会社にとっては黙視できない事柄であること、右原告の言動はその様に直接本件工事についての被告会社の信用を損うに足るものであるのみならず、一般に労務者と雇主との人的信頼関係が濃密であると認められる小規模な土建業者間にあって、その様に中堅労務者が、事の真偽はともあれ、自社の信用をかばうのではなく、敢えてその信用を低下せしめる様なことを元請先の責任者に告げるというような事は、当該企業内部の人的信頼関係ひいて被告服部自身の社長としての統制力に対する評価を低下させ、ために被告会社の業務上の信用をも損わしめるものであること、そして、被告会社の如き中小土建業者間にあっては、かかる信用問題は特に重要であることが認められ、これによると、被告会社が前認定の原告の言動をもって、被告会社の信用を毀損したものと認めた判断に誤りはなく、前記当時の本件工事を巡る被告会社の対B会社ないしA会社との関係に及ぼす右信用毀損の影響を考慮すれば、これを理由に懲戒解雇に付したことには正当な理由が存し、そこにA会社の圧力が働いたことを考慮しても、そのまま原告を雇傭し続けA会社の心証を害することは、当時の被告会社にとって非常に不利である点を考えれば、解雇権の濫用にあたるものと認められない。
〔解雇-解雇事由-名誉・信用失墜〕
 (二) 前記認定の事実によれば原告のC会社における言動は一応被告会社の名誉、信用を害するものであり、また、前記第一の一(一)(4)に認定の如く土建業界において同業者間の信用を失うことは被告会社の経営に重大な影響を及ぼすものであるから本件葉書、新聞広告を出すにつき被告らにもその主張の如き動機の存したことは認められる。
 しかし、既に解雇とくに懲戒解雇の事実が濫りに公表されることは被解雇者の名誉、信用を低下させるものであるからその公表の許される範囲は自から限度があり、真に必要止むを得ない場合に、必要最少限の表現を用いてなされなければならない。しかるに被告らは本件全証拠によるも原告が前認定のD以外の者に対しても前同様の言動に出たとは認められず、かえってDも原告の右言動をにがにがしく思って、雇入れを断わったものと認められ、原告のそうした言動がどの程度の信用性をもって迎えられるかも疑わしく、また、前記大津警察署の事情聴取の端緒が原告の投書によると認めるに足りる証拠もないのに、前記認定の如く本件葉書、新聞広告をそれを読む者をして原告が何らかの重大な不正行為をなしたため懲戒解雇されたかの如き印象を与える様な態様において、原告が再就職の対象とする可能性の大きい同業者間に流布し、且つ新聞紙上で不特定多数人の目にも触れさせたのであるから、これを前記原告の被告会社に対する名誉、信用毀損の言動と対比して結局その手段、方法においてのみならず、内容においても被告らの名誉、信用を擁護するに必要な限度を逸脱し、一種の報復措置として、違法に原告の名誉、信用を毀損し、原告に対し相当の精神的苦痛を与えたもので明らかに不法行為を構成するものと言わざるを得ない。