全 情 報

ID番号 03603
事件名 不当労働行為救済命令取消請求事件
いわゆる事件名 医療法人一草会事件
争点
事案概要  看護婦不足のため三交替制を当直制に改める就業規則の変更には合理性があり、これに同意しない従業員にも適用があり、右当直拒否者に対する昇給、一時金の額についてマイナス査定することは不当労働行為にはあたらないとされた事例。
参照法条 労働基準法93条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 労働時間・休日
裁判年月日 1973年12月26日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (行ウ) 36 
裁判結果 認容(控訴)
出典 時報737号92頁
審級関係
評釈論文 岸井貞男・判例評論188号32頁
判決理由 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-労働時間〕
 (四) 被告は使用者が一方的に就業規則を変更したとしても、それをもってこれに同意しない労働者の個々の労働契約の内容が直ちに就業規則の改正どおりに変更されるものではないから、本件当直制の採用に伴う就業規則の変更に同意しなかった第一組合員に対しては、改訂した就業規則に基づく業務命令により当直勤務を命ずることはできないと主張する。
 一般に就業規則は、多数の労働者を使用する近代企業において、その事業を合理的に運営するため、多数の労働契約関係を集合的・統一的に処理する必要があるところから、労働条件についても、統一的かつ画一的に決定するため、個別的労働契約における労働条件の基準として、使用者が定めたものであり、労働者は、経営主体が定める契約内容の定型に従って、附従的に契約を締結せざるを得ない立場に立たされているのが実情であって、右労働条件の定型である就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものである限り、経営主体と労働者との間の労働条件はその就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っているということができる。従って、当該事業場の労働者は、就業規則の存在、および、内容の知悉の有無、またはこれに対する個別的同意の有無にかかわらず、当然にその適用を受けるものというべきである。
 また、就業規則は経営主体が一方的に作成し、かつこれを変更することができるとはいえ、新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者においてこれに同意しないことを理由とし、その適用を拒否することは許されず、これに対する不服は団体交渉等の正当な手続による改善にまつのほかはないというべきである(昭和四三年一二月二五日最高裁判所判決参照)。
 しかして、前説示のように、当直制採用に伴う就業規則の改正は合理性があるのであるから、第一組合員がこれに同意しなかったとしても、同人らに対しても当然に適用されるものであることはいうまでもないことである。
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
 (五) 被告は、原告病院は、第一組合員に対して当直勤務を命じたことはない旨主張するが、前記争いのない事実によれば、原告病院は団交の席上口頭により、或いは、文書により当直勤務につくよう要請していたものであり、これに対して第一組合員は、前記「二人当直朝帰り」等を主張し現状のままでの当直勤務に従事することを明示的に拒否し続けていたのであり、もしも第一組合員が右当直勤務に従事する旨の意思表明がなされた場合、原告病院としては直ちに当直勤務につくことを命じたであろうことは推認するに難くない。原告病院が第一組合員のかかる意思表明を期待し、或いは、当直拒否の態度を明らかにしている段階において無用な混乱を避けるために、第一組合員個々に対し具体的な当直勤務命令を発しなかったことは妥当であり、責めらるべき筋合ではない。従って、当直拒否の態度を明らかに維持している第一組合員を業務に対する非協力的態度を有するものと評価し、それを考課の対象とすることは合理的理由があるというべきである。