ID番号 | : | 03604 |
事件名 | : | 差押債権取立請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 株式会社チトセ事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 懲戒解雇が可能な実質的要件が存在するにもかかわらず使用者が依願退職の形式をとった場合につき、退職者が退職金を請求した事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法3章 労働基準法24条 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 賃金債権の放棄 |
裁判年月日 | : | 1972年1月24日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和44年 (ワ) 1094 |
裁判結果 | : | (控訴) |
出典 | : | 時報681号87頁/タイムズ276号312頁/訟務月報18巻5号725頁 |
審級関係 | : | 控訴審/大阪高/ . ./昭和47年(ネ)116号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕 従前、被告会社においては、右の懲戒解雇は殆んどなされておらず、懲戒解雇に当る場合においても、例えばその非行が、刑事事件になつたり、新聞に掲載されたりあるいは業界一般に知れ渡つたような場合を除き(そのような場合は懲戒解雇処分をする。但し被告会社にそのような例はないが、同程度の企業の場合にある)、退職者の将来の就職等の妨げにならないよう「依願退職」にしてきたもので、本件のAについても同様であること、以上の事実が認められる。(証拠省略)中、右認定に反する部分は前掲証拠に照らしにわかに措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。 (二) 右の事実からすると、訴外Aの退職は、被告会社の就業規則一九条による依願退職であると認めるのが相当である。 被告訴訟代理人は、Aに対し、「実質的には懲戒解雇であるが、形式上依願退職にする」と告知した旨主張するが、仮にそのとおりであるとしても、その意味するところは、「懲戒解雇にすべきであるけれども、将来の就職等を考慮し、依願退職にする。」という意味に解せられるのであって、前記就業規則第五四条による懲戒解雇とは認められない。蓋し、右就業規則第五一条五号による即時解雇の形式はとられていないし、その旨の辞令の交付もなく、さらに訴外Aに対し昭和四一年一〇月二〇日退職願の提出を求め、同年一一月二〇日これを承認したことは、むしろ就業規則第一九条による依願退職であることを窺わせるに十分であるからである。 〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕 〔賃金-賃金の支払い原則-賃金債権の放棄〕 仮に退職者がその請求をせず、したがつてまた使用者において支給しない例が多いとしても、それは処分権主義下における権利行使の自由及び退職者が退職金以上の損害を使用者に蒙らせている場合も多いことなどに由来するものと解せられ(なお被告会社においても、就業規則第五五条で使用者の損害賠償請求権を定めるが、前記証人Bの証言によると、被告会社が現実に右請求権を行使した例はない)、これを目して被告の主張するように、慣習法とか事実たる慣習と評価することはできない。 また、被告は、「被告会社は訴外Aに対し懲戒解雇の意思表示をする際、退職金を交付しない旨通知した」と主張するが、これを認めるに足る証拠はなく(証人Bの証言(第一回)中、右主張に副う部分はにわかに措信できない)、むしろ、前記認定のとおり、退職金については全く触れられなかつた、と認められる。 (三) 以上の次第で、被告の懲戒解雇を前提とする主張(事実欄第二の二、2の(一)、(1)ないし(3))はいずれも理由がないというべきである。 2 次に、訴外Aが被告会社に対し、退職金債権を放棄したかどうかについて判断する。 被告は、「訴外Aは昭和四一年一一月一〇日被告会社に対し黙示に退職金債権を放棄した」旨主張するが、これを認めるに足る証拠はなく、却つて成立に争いのない(証拠省略)によると、「退職金は貰えないものと思つていた」、この「税金を納めるために、たとえ一部でも払つてくれたらと思つて最近社長に会いたい旨電話した……」等述べており、したがつて、放棄するという意見はなかつたことが認められる。 よつて被告のこの点の主張も理由がない。 |