ID番号 | : | 03616 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 目黒高校教諭事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 校長が教諭の同意なしにその授業の全内容を録音しこれを根拠として教育が独善的である等としてなした解雇の効力が争われた事例。 |
参照法条 | : | 教育基本法10条1項 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度 |
裁判年月日 | : | 1972年3月31日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和40年 (ヨ) 2188 |
裁判結果 | : | 一部認容・却下 |
出典 | : | 労働民例集23巻2号155頁/時報664号23頁/タイムズ276号246頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 吉川基道・教育判例百選62頁/新井章・判例評論164号6頁/大沢勝・季刊教育法7号94頁/保原喜志夫・ジュリスト540号114頁/有倉遼吉・季刊教育法4号126頁 |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕 国公立学校たると公の性質をもつ私立学校たるとを問わず、教員は、大学その他の高等の教育機関と下級の教育機関とにおいて程度の差こそあれ、教育の本質および教育者の使命に鑑がみ、前記教育の目的の範囲内においてその自由と自主性を保持し、公の機関又は学校法人の理事者やその他の団体又は個人に由来する不当な支配ないし影響力から防禦されなければならない。従つて、それらのものは教員の教育の具体的活動の内容に立入つて命令、監督することは避けなければならず、そのなし得ることは教員に対する適正な手段による援助、助言ないし助成でなければならない。そして、右の援助ないし助成を現実に行なつた後においてもなお、その効なしと認められるとき、はじめて解雇その他の是正手段をとり得るものと解すべきである。而して前記認定事実によれば、申請人については、昭和三六年開催のA高校の人事委員会において、その生徒指導ないし授業内容について問題がある旨指摘され、校長に対し申請人に注意を喚起するよう決議がなされたため、校長は申請人の授業内容を検討せんとしたのであるが、校長、同僚又は父兄による授業参観、生徒よりノート等の借用、申請人とその同僚又は校長との意見交換等他にみるべき手段によることなく、直ちに申請人の同意なしにその全授業を録音したのである。かかる行為は教員たる申請人に対し、その授業内容について、有益な援助ないし助成をなすその前提としての授業内容の確知方法において適正な手段とはいい難い。もちろん公の性質をもつ学校教育の授業についてはその秘密性を保持する法益は存しないけれども、右のような確知方法を教育の場面において直ちに容認するときは、教育の自由の空気は失われ、教員の授業における自由および自主性が損われることは否定できない。してみれば、申請人の授業内容も後述のとおりであるが、それはともかく右の如き手段によつて収集した申請人の授業内容を根拠として申請人を解雇した本件はすでにこの点において前記教育基本法第一〇条第一項の「不当な支配」に該当し、右は公秩序に反し、このような被申請人の解雇の意思表示は権利の濫用として許されないものといわねばならぬ。 |