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ID番号 03626
事件名 訓告処分無効確認ならびに損害賠償請求事件
いわゆる事件名 国鉄青函局事件
争点
事案概要  国鉄において組合員らが勤務時間中「大巾賃上げを闘いとろう」などと書いたリボンを着用して勤務についたことを理由として訓告処分を受けた者がその効力を争った事例。
参照法条 日本国有鉄道法31条
鉄道営業法22条
日本国憲法28条
労働組合法7条1号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 債務の本旨に従った労務の提供
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1972年5月19日
裁判所名 函館地
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (ワ) 302 
裁判結果 一部却下、一部認容
出典 労働民例集23巻3号347頁/時報668号21頁/タイムズ278号96頁
審級関係 控訴審/03574/札幌高/昭48. 5.29/昭和47年(ネ)167号
評釈論文 角田邦重・労働法律旬報818号46頁/秋田成就・ジュリスト538号106頁/松田保彦・判例タイムズ289号113頁/川口実・法学研究〔慶応大学〕46巻3号111頁/林迪広・判例評論166号18頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 本件訓告処分の性質およびその存在から生じる派生的効果に鑑みれば、本件訓告処分特に同一年度に二回の訓告処分を受けた別紙第二原告目録(一)記載の原告らについて、その有効、無効を決することは、原告らと被告との間の基本的な労働契約関係においてその有効、無効を原因として将来発生することが予想される種々の紛争(例えば、二回訓告を受けた原告らに対する昇給号俸減の当否)を解決するのにきわめて有効適切であるということができよう。
 もつとも、本件訓告処分から派生した個別的権利関係についてそれぞれ給付請求等の訴えを提起することも確かに不可能ではない。例えば、訓告処分の存在を理由に昇給号俸数が減ぜられた場合に右訓告処分が違法であることを主張して、本来の所定号俸数の昇給があつた場合との差額の賃金の給付請求の訴えを提起することも決して不可能ではない。しかしながら、被告が本件訓告処分を適法なものとして扱う限り、原告らは右のような給付請求を昇給のなされる都度提起しなければならないこととなる。むしろ、本件訓告処分が不適法なものであるとすれば、被告は原告らに対しその有効な存在を前提とする不利益処分をしてはならない旨を宣言する意味で、端的に本件訓告処分の無効を確認することが、真の紛争の解決となるものといえよう。
 よつて、本件訓告処分を二回受けた原告らについては、その無効確認を求める訴えの利益があるといわなければならない。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-債務の本旨に従った労務の提供〕
 労働者の職務専念義務とは、使用者から要請されている一定の精神的ないし肉体的活動力を完全に提供すべき義務を意味するにすぎないと解すべきであるから、ある行為がこの義務に違反するかどうかは、それが勤務時間中の組合活動か否かによつて一律に決せられるべきものではなく、当該行為の性質内容を具体的に検討したうえ、労働者が当該行為をなすことによつてその精神的ないし肉体的活動力を完全に提供しなかつたことになるのかどうかによつて判断すべきである。従つて勤務時間中の組合活動であつても、右の意味で労働力を完全に提供していると評価されるときには、何ら職務専念義務に違反していないというべきである。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-債務の本旨に従った労務の提供〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 右リボンの着用はこれを制服等に付けることによつて一切の有形的行為を終了しその後は格別の行為を必要としないものであるから、該リボンに記載された文言の内容にかゝわらず当該職種に要請される労務に精神的、肉体的に全力を集中することが可能であり、職務専念義務と両立し得ないものと解することはできない。
 もつとも、使用者の側からみれば従業員が要求事項を記載したリボンを着用したまゝ労務の提供をしていることは物心両面にわたりこれを提供していることにはならないと感ずるであろうことは避け難いことであると云えるかも知れない。
 しかし、仮りに原告らが本件リボンを着用していることによつて組合活動を意識し職務に対する精神的集中力が低下するとしても、いかなる程度に低下するかは明らかでない。本件リボンの着用は職務専念義務に違反するとする証人Aの証言は抽象的、理念的には考え得る議論であるけれどもいかなる点において両立し得ないものか具体的説明がなく、遽に採用できないし、他に原告らが勤務時間中本件リボンを着用したことにより職務の遂行上注意力が散漫となり支障をきたしたものと認めるに足りる証拠はない。
 そして、本件リボンに記載されている文言が、労働者ないし労働組合の要求として不当なものであるとは認め得ないし、また、原告らの職種、本件リボンの形状およびその着用態様に照らすと、本件リボンを着用することによつて原告らの服装がそれ自体で社会通念上異状ないし不快なものとなるとは言い難い。そうであるならば、労働者ないし労働組合が、団結権ないし団体行動権に基づいて、団結示威ないし連帯感強化行為として本件リボンを着用したこと自体を違法ないし不当な組合活動ということはできず、本件リボン着用行為は、それ自体としては正当な組合活動であつたと評価される。
 しかして、原告らの職種は前記のとおり多岐にわたるけれども、いずれも国鉄の使命である旅客貨物の安全な輸送に奉仕するものであるところ、本件全証拠によるも本件リボンの着用によりこれら輸送の安全を害し、その正常な運営を阻害し或いは職場の公共性に支障をきたしたものと思料される特段の事情も認め難いところである。
 そうすると、原告らが勤務時間中組合活動として本件リボンを着用したことは職務専念義務に反するものとは認め難いものといわなければならない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 以上のように考えると、社会通念、現代人の労働法的知識および感覚ならびに経験則に照らしても、本件リボン着用行為が被告が主張する服装の規制をなす目的ないし必要性に背馳しているとは認められず、本件リボン着用行為が服制違反になるものとしてこれを規制する合理的理由を見出すことができない。