ID番号 | : | 03638 |
事件名 | : | 時間外勤務手当等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 八雲町立小中学校教員事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 公立小中学校の教員が職員会議への出席につき時間外勤務があったとして時間外勤務手当および附加金の支払を請求した事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法37条1項 労働基準法114条 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 割増賃金 / 支払い義務 雑則(民事) / 附加金 労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 小学校長 |
裁判年月日 | : | 1972年7月19日 |
裁判所名 | : | 函館地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和43年 (行ウ) 31 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 行裁例集23巻6・7合併号532頁/タイムズ283号203頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-割増賃金-支払い義務〕 勤務時間の内外によつて職員会議の内容、運営方法等に何らの差異も生じなかつたことは前記認定のとおりであるから、教員が正規の勤務時間を超えて職員会議に出席した場合、正規の勤務時間内の場合と同様職務として出席しているものと解するを相当とする。 (四) そして、職員会議が前記認定のような内容および運営方法をもつものとすれば、それは、学校教育法第二八条第三項または第四〇条の規定により校務を掌理する校長がその権限により必要に応じて召集し主宰していたものと解するほかはないから、原告らは当該勤務校の校長の召集に基づく明示的ないし黙示的な職務命令に従つて職員会議に出席していたと認めるを相当とし、このことは勤務時間の内外を問わず妥当する。勤務時間を超えて職員会議を続行する際、司会者が出席者の意向を打診し、これに対し出席していた教員が異議を述べず、または積極的に同意して続行された場合であつてもこのことから、直ちに正規の勤務時間を超える職員会議への出席が教員のまつたく任意の自発的奉仕行為であると解するのは相当でない。正規の勤務時間を超えて職員会議が続行された場合において、これを召集し主宰している校長が続行につき異議を述べたり終了を宣言するなどして勤務時間を超えて職員会議に出席すべき命令を出さないことを明らかにしないかぎりは、教員は、校長の勤務時間を超えて職員会議に出席せよとの明示的ないし黙示的な職務命令に従つて職務として時間外勤務をしていたものと認めるを相当とする。 (五) ちなみに、法令上校長に正規の勤務時間を超えて職員会議に出席せよとの職務命令を発する権限があつたかどうか、又このような命令に教員が従う義務があつたかどうかという問題は、本件の時間外勤務手当の請求の可否を決するうえでは重要な問題ではない。すなわち、本件においては、本件時間外勤務が時間外勤務手当を支給すべき労働であるか否かだけが問題なのであるから、正規の勤務時間を超えて職員会議に出席することが教員の正当な職務に含まれているかどうかおよびその出席が校長の事実上の職務命令によつたものであるかどうかだけを検討すれば十分である。 (六) よつて、原告らの本件時間外勤務は各勤務校の校長の職務命令によつたものと認められる。 〔労基法の基本原則-使用者-小学校長〕 法令上校長が教員に対し時間外勤務命令を発する権限を有しているかどうかに関係なく、事実上上司である校長から指示命令を受け、事実上これに拘束されることがありうる教員について、労働基準法上の諸権限を享受させるためには、校長は同法第一〇条にいう「使用者」に該当すると解しなければならない。 〔雑則-附加金〕 労働基準法第一一四条所定の附加金支払義務は、使用者が同法所定の解雇予告手当等の支払義務を正当な理由なくして履行しない場合において労働者が附加金の支払を裁判所に請求した時点から遅滞に陥るものと解する。その理由は次のとおりである。 労働基準法第一一四条が附加金の支払を認めた趣旨は、主として同法所定の解雇予告手当等の支払義務の不履行に対して使用者に一般の遅延損害金のほかに附加金の支払義務を課することによつて解雇予告手当等の支払を確保しようとすることにあり、この意味において附加金は一種の民事的制裁の性質を有するものということができよう。しかし、同条は、これに加えて、解雇予告手当等の支払義務の不履行によつて一般の遅延損害金では償い得ない損害が労働者に発生することを想定し、これをてん補するものとして附加金の支払を使用者に命じたものと解することができ、この意味では附加金は損害賠償の性質を有すると考えられ、結局附加金は民事的制裁の性質とともに損害賠償の性質をもあわせ有するものと解するのが相当である。このように考えると、損害賠償という私法上の債務としての性質をも有する附加金が裁判所の命令によつて始めて発生すると解することは、通常の私法上の債務のあり方としてきわめて異例の事態であつて妥当ではなく、附加金請求権は裁判所の命令以前に存在するものと解さなければならない。そして、同条が「裁判所は、………労働者の請求により、………附加金の支払を命ずることができる。」と規定している点からみると、附加金請求権は、解雇予告手当等の不払があつても当然に発生するものではなく、労働者が附加金の支払を裁判所に請求して始めて発生し、、その時以降遅滞に陥いるものと解するのが相当である。 |