全 情 報

ID番号 03643
事件名 依願免職処分執行停止申立事件
いわゆる事件名 宮崎県教育委員会事件
争点
事案概要  県立公立学校の用務員で県立水産高校所属の実習船の甲板員で右船舶航行中の船員とのケンカを理由に退職願を提出して依願免職処分とされた者が右退職願は撤回されていたとして右処分の効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
行政事件訴訟法25条3項
体系項目 退職 / 退職願 / 退職願いの撤回
裁判年月日 1972年9月25日
裁判所名 宮崎地
裁判形式 決定
事件番号 昭和47年 (行ク) 3 
裁判結果 却下(抗告)
出典 時報681号35頁/タイムズ285号224頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-退職願-退職願いの撤回〕
 公務員の退職願とかその撤回は、当該公務員の身分関係に変動をもたらす重大な事柄であって、それらを行使することは一身専属的性質を有するものである。従って任免権者においても公務員よりなされた退職願の撤回の取扱いについては十分慎重かつ確実を期すべきは当然であるけれども、一方退職願を撤回せんとする公務員も信義則上任免権者において当該公務員の真意を容易・確実に把握しうるだけの確実かつ明確な表示により、しかも相手方もしくは第三者に不測の損害を与えない時期においてこれをなすことが要求されるものと解する。
 従って代理人による退職願の撤回が許されないことは勿論であるが、当該公務員のなした退職願撤回の意思決定に基づき、いわゆる使者たる第三者が右撤回意思を任免権者にもたらすことによって当該撤回の意思表示を完成せしめんとする場合には完成された書面による撤回願を使者が持参するのなら格別、口頭による使者では表示上確実性・明確性を欠き撤回の効力を生じないものと解される。また退職願の撤回は退職発令が効力を生ずるまでの間なら何時でもなしうるのが原則であるけれども右退職願の有効なことを前提にして新たな関係が形成されその撤回を認めたのでは相手方もしくは第三者に不測の損害を与えるような段階になってからの撤回は信義に反し無効のものと解される。
 (中略)
 被申立人側においては、申立人の退職願が確定的なものであると信じて申立人が退職願撤回を決意する以前に申立人に代る乗組員を乗船せしめているのであり、ことがただちに航行を続行すべき船の船員の補充ということであるから、それも当然のことであって、退職願を提出して下船してしまった申立人において非難しうるかぎりではない。
 そうすれば申立人の退職願撤回の意思表示はその表示行為において確実性・明確性を欠き、また時期的にも申立人に代る乗組員を乗船させた後であって信義に反するものであるから無効というべきである。