ID番号 | : | 03647 |
事件名 | : | 判定及び休職処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 国立国会図書館事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 首相訪米阻止闘争に参加し兇器準備集合罪で起訴された国会職員に対する起訴休職処分の効力が争われた事例。 |
参照法条 | : | 国会職員法13条1項2号 国会職員法13条3項 国会職員法14条1項 日本国憲法31条 日本国憲法28条 |
体系項目 | : | 休職 / 起訴休職 / 休職制度の合理性 休職 / 起訴休職 / 休職制度の効力 |
裁判年月日 | : | 1972年11月7日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和45年 (行ウ) 182 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 行裁例集23巻10・11合併号794頁/タイムズ288号259頁/訟務月報19巻2号11頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔休職-起訴休職-休職制度の合理性〕 国会職員が刑事事件に関し起訴されると、起訴された者も有罪判決が確定するまでは刑事訴訟法上は無罪の推定を受けているけれども、起訴された事件が有罪となる割合の著しく高いわが国の刑事裁判の実状の下においては、相当程度客観性のある公の嫌疑を受けたものとの社会的評価を免れない。この社会的評価は、刑事訴訟法上の無罪推定の原則と相容れない面があるかもしれないが、ここで必要なことは、純理論の帰結ではなくして、公務員が起訴されたという事実について、世間一般がどう感ずるかということであり、また、そのことが職場秩序にどう影響するかということである。すなわち、起訴された職員が引き続き職務に従事する場合には、当該職員の地位、職務の内容、公訴事実の具体的内容、罪名および罰条の如何によつては、そのような者が現に職務を執行しているということによつて、職場規律ないし秩序の維持に悪影響を及ぼすことがあるのみならず、その職務遂行に対する国民一般の信頼をゆるがせ、ひいては官職全体に対する信用を失墜させるおそれがある。このような現実が厳として存在することを否定できないのであるから、そうした国民一般の考え方は誤つているといつても、せんのないことである。およそ公務員たる者は、国民から疑惑の目をもつて見られるようなことをしてはならないという厳しい規律に服さなければならないのであつて、その規律に違反すれば、不利益処分を受けてもやむを得ないのである。 さらに、刑事被告人は、原則として公判期日に出頭する義務を負い、一定の事由があるときは勾留されることもあり得る(刑事訴訟法第六〇条)ので、ひのことにより職員としての職務専念義務(国会職員法第二三条)を全うし得ず、公務の正常な運営に支障を生ずるおそれもなしとしない。公務の能率的な運営は、公務員一人一人が有機的一体となつてその職責を全うすることによつて実現される。その一人でもが職務の遂行が満足にできないようになることは、労働力の適正な配置を阻害し、ひいては公務の能率的な運営に障害をもたらす結果を招来することも否定できないのである。もつとも、起訴によつて刑事被告人が直接負う義務は、公判期日への出頭だけであり、事件の性質によつては、公判期日が短期間内に終了することがあるかもしれない。このような場合には、起訴に伴う労務の不提供のため公務の能率的運営が著しく阻害されるものとはいえないけれども、刑事被告人が勾留されたまま起訴されることが少なくないという実状に思いをいたす必要がある。勾留されている場合は全く労務の提供が不能なのであり、いつ保釈されて労務の提供が可能となるかは、何人も予測できないのである。このような不確実な者の職務を漫然空席のまま放置し、公務の停廃を座視することは許されないのである。 〔休職-起訴休職-休職制度の合理性〕 国会職員に対する起訴休職制度は、右のような悪影響ないし支障を生ずるおそれのある職員をその身分を保有するが、一時的に職務に従事させないこととし、もつて職場規律ないし秩序の維持、国会職員の職務遂行に対する国民の信頼ひいては官職に対する信用の保持、公務の正常な運営の確保を意図するものである。しかも、この制度は、必要的休職制度ではなく、以上のような目的に制約された範囲内の任命権者の裁量に属する行為である。また、休職を命ぜられた職員も、職務に従事することはできないけれども職員としての身分は保有し(国会職員法第一四条第一項)、その休職の期間中、俸給、扶養手当、調整手当および住居手当のそれぞれ一〇〇分の六〇以内の支給を受けることができる(国会職員の給与等に関する規程第一四条第一項、一般職の職員の給与に関する法律第二三条第四項)のである。このように、国会職員に対する起訴休職制度は、合理的な理由に基づいて公益上必要最小限度の制限ないし不利益を定めたものであるから、憲法第一三条に違反しない。また、この制度は、起訴された職員を有罪であると推定して休職を命ずるものではなく、起訴されたこと自体を要件とする処分であるから、かりに刑事裁判における無罪推定の原則(この原則は、刑事裁判における被告人の人権保障の思想を表現したものであつて、社会生活における一切の関係においてまで無罪の推定をなすべきことを内容とするものではない。)の憲法上の根拠が憲法第三一条にあるとしても、同条に違反しない。さらに、起訴された職員を休職に付しても、公務員の労働者としての権利を剥奪するものとはいえないから、憲法第二八条に違反するものでもない。 〔休職-起訴休職-休職制度の効力〕 国会職員法第一三条第一項第二号の規定は、国会職員が刑事事件に関し起訴されたという事実を要件事実として、任命権者に当該職員を休職処分に付する権限を付与する旨の効果を定めたものである。起訴にかかる原告の行為が原告主張のような事由の存否により違法性を阻却するかどうかというような問題、換言すれば起訴の当否は、その事件の係属する刑事裁判所が専権的に判断すべき事項である。任命権者は、その起訴された事実が真実であつて犯罪構成要件に該当するかどうか、その行為が違法性を阻却するものであるかどうか等については、審査する権限もなければ、義務もない。起訴にかかる行為の正当性の有無は、休職処分の効力に影響を及ぼすものではないのである。したがつて、原告の行為が正当であることを理由として、本件休職処分の違憲、違法をいう原告の主張は、主張自体失当である。 |