ID番号 | : | 03648 |
事件名 | : | 就労妨害禁止等仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 高北農機事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 農機具メーカーの従業員が福岡出張所への配転を命ぜられ、これを無効として転勤命令の効力停止の仮処分を申請し認容されたにもかかわらず、会社が元の職場での就労を拒否しているため、会社に対して就労妨害禁止の仮処分を申請した事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 就労請求権・就労妨害禁止 |
裁判年月日 | : | 1972年11月10日 |
裁判所名 | : | 津地上野支 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和47年 (ヨ) 13 |
裁判結果 | : | 一部認容・却下(異議申立) |
出典 | : | 時報698号107頁/タイムズ289号269頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 浜田冨士郎・ジュリスト559号115頁/浜田冨士郎・労働判例百選<第三版>〔別冊ジュリスト45号〕38頁 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-就労請求権・就労妨害禁止〕 労働契約においては、労働者は使用者の指揮命令に基き一定の労務を提供する義務を負担し、使用者はこれに対して一定の賃金を支払う義務を負担するのが、その最も基本的な法律関係ではあるけれども、両者の法律関係はこれに止まらず、労働者の就労請求権について労働契約等に特別の定めがある場合または業務の性質上労働者が労務の提供について特別の合理的な利益を有する場合は勿論、労働者が賃金の支払のみを受ければ足り、就労自体はこれを特に望んでいないというような特別な事情のある場合、もしくは、労働者が懲戒処分を受けるなどして使用者に対して就労を請求し得ないような場合を除き、一般に労働者は使用者に対してその就労を請求し得る権利をも有しているものと解するのを相当とする。けだし、労働契約は特定人間の継続的な契約関係であるから、その当事者間には、売買その他の非継続的債権契約に比してより一層強度の信頼関係を必要とするものであり、契約当事者は信義則の要求するところに従ってその給付の実現について誠実に協力すべき義務があるからである。したがって、労働契約において使用者は通常の場合、労働者が適法に労務を提供したときはこれを受領する権利のみならず、これを受領すべき法律上の義務があり、正当な理由なくしてこれが受領を拒否するときは単に賃金支払義務を果たすのみではその責を免れることはできないものと解すべきである。 就労請求権についての右のような考え方は、これを実質的にみた場合、労働者は労働契約関係において現実に就労することに利益を有することからも肯認されるであろう。すなわち、労働者は労働によって単にその生活のために必要な賃金を得るに止まらず、労働そのものの中に労働者としての充実した生活を見出し、労働によって自信を高め人格的な成長も達成することが出来る反面、仮に労働者が就労しない期間が永く続くようなことになれば、当該労働者の技能は低下し、職歴上及び昇給昇格等待遇上の不利益を蒙るばかりでなく、場合によっては職業上の資格さえも喪失し兼ねない結果となる。のみならず、労務の提供は労働者の義務であって権利ではないとする立論が不合理な結果をもたらすものであることは、例えば使用者が不当労働行為意思をもって労働者の就労を拒否する場合を想定すれば明らかである。すなわち、組合活動に熱心な労働者を企業から排除するために、使用者が労働者の就労を拒否した場合、それにもかかわらず使用者にはその労働者を職場に復帰させ就労させる義務がないものと解するときは、労働者の犠牲において使用者の不当労働行為を不当に保護する結果となって、到底正当な解釈とはいえないであろう。 したがって、申請人に就労請求権の行使を妨げるような特別の事情のない本件においては、申請人は被申請人会社に対して就労を請求し、被申請人会社は申請人の提供せんとする労務を受領すべき義務があるものといわなければならない。 |